僕らは平行に進んでいく

リアス

僕らは少しずつ

女はひまわり畑を縫うように走っていた。

何かに惹かれるように走る。

だが、またここで出逢うには少しばかり時が経ち過ぎた。


女の目指す先は豆腐のような四角い打ちっ放しのコンクリートでできた小屋だった。


窓は2つ、そこには枯れたラベンダーのプランターが置いてあった。


長らく開けられていないのであろう木の戸は女にギィと不快な音を伝える。


そして積もった埃の部屋の中に座る1人の男がいた。

男は横に長い机にいくつもの椅子の真ん中に座っていて、既に白骨と化した男がそこにいた。

しかし頭蓋は椅子の上でひび割れ、肉は腐り落ち、足元にはそれが抜け殻だと言うことを証明するような大きな血溜まりの痕があった。


恐怖は湧かない。人の死体など生きていて見た事が初めてだから現実味が無いだけかもしれない。


しかし彼は生きていた。

女を待つという強い意志を持ち、死んでなおここで待ち続けたのだ。そこに生者との違いがあるのか女はわからなかった。


女は頭蓋をひと撫でしてまた戸を閉ざし同じ道を歩んだ。


またいつか来る日を信じて…



日ノ本暦1623年



男は目醒めた。


黒い。


毎朝最初に思う事はそれだ。

本気で精神を病ませにきているとしか思えないほど黒い。

部屋も、物も、支給される絞り出すタイプのゼリーの袋に至るまで全てが真っ黒だ。


「はぁ、遂にこの家ともお別れか。」


俺は棚の横に置いてあった黒い目隠しを取り、頭につける。


「俺はどんな色なんだろうか。」


眼、それはこの国で最も重要なステータスであり、人の価値を決めるものだ。

これは日ノ本の人間にのみ現れる特別な物だ

その人の脳や体の発達に応じて眼の色は黒を一番下として白、黄、赤、青、紫そして大王様にのみに現れる全ての色を含んだ瑠璃目、と呼ばれる七眼に分けられる。


「行ってきます。」


俺は部屋を出て学校へと向かう。


今日は眼の色付けの日なのだ。

色をつける方法は簡単だ、鏡で自分の顔を見ればいい。俺は自分の顔は知らないがまぁブスじゃないだろう。どうでも良いけど。


「よぉ!山田!テンション上げてけよ!」

「よう、お前は朝からテンション高すぎなんだよ。」

「おうおう冷たいこと言っちゃってぇー!俺泣いちゃうよー!本当に泣いちゃうぞ!」


泣くふりをするこいつをほっていくと、後ろから走って追いかけてくる親友、瀬川伸典を華麗なスタッフで避けていく。

このバカは勉強は終わってるが運動に関しては空手で日本2位でそこそこ強い。まぁ1位の俺には負けるがな。


「あっ、お前また俺の事小馬鹿にしてるだろ!」

「お前は超能力者か。」

「まぁねぇー!お前の考えてる事なんかおめとうしだぜぇ!って、なんだと!」

「おみとうし、な。なんでお前はいっつもちょっとずつ間違うんだよ。」


こいつとは昔からの友だが、なかなかこのテンションには着いていけない。もうちょっと朝は静かに行きたいんだけどな。


俺と伸典は学校に着くと机の上に置かれている物に気づいた。


「ま、まさかバレンタインチョコォ!!?」

「んなわけねぇだろ。もう過ぎたろ。これは鏡を入れてるケースじゃねえの?」


そう言うとこいつはガクッと肩を落とした。こいつチョコ5個ぐらい貰ってたくせに、左後ろの石本が震えてるぞ...ちなみに俺は6個だけどな。


俺らがどうやら最後みたいだった。

いつもは結構少なめだが、文化祭の時もこんな感じだがこんな早くにきてコイツらはすることあるのだろうか。


「おい、ホームルーム始まるから座れ。」

「やべっ、ハナセンきた。さっさと座ろうぜ。」


俺らは急いでリュックをロッカーの上に置き椅子に座る。



「今日の事だが、みんなの知ってのとうり眼の色付けをする日だ。お前達の人生を決める上でも大切だが、何度も言うが黒が普通だからな。お前達は赤とか青などと言っているがそんな人間なんて一握りなんだぞ。」

「確かに先生は黒なのに20年教師やってるからなぁ!やっぱ説得力がちげーわ!流石の話の長さ!」


後ろ側のアホどもが叫ぶと先生の顔がより一層険しくなった。

あんなのは結局黒だからどうでも良いな。

まぁ、俺なら赤か青は確定だろう。


「コホン、えーまぁとりあえず開けてみろ。」


俺は黒い箱を開け、布を取り、鏡を覗いた。

ドキドキする胸の鼓動を抑えて眼を開く。


俺の眼は...






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