第57話

 二〇一二年八月の夏休みであった。

 金城一家はかしわざきフィッシャーマンズケープにきていた。

 金城浩樹はおもう。結局ここにかえってくるんだ。おとうさん。金城ひろは昨年の『九一一』できゆうていたいりよの左腕を喪失したために愛妻である金城かなえの運転でかしわざきにきていた。後部座席でけんえんとしていた七歳の愛息金城一鬼はまだ金城ひろを父親とおもっていなかったがかしわざきの日本海はすきなので一家だんらんで海水浴にきたのである。金城ひろと金城かなえと金城一鬼はしやりよういんえいで普段着から水着にきがえたのちに灰褐色の堤防をくだってみぎわにむかっていった。襤褸ぼろ襤褸ぼろの海の家がてきちよくいんしんとしている灰褐色の堤防側の浜辺にはペットボトルや薬瓶など千状万態の廃棄物がほうてきされており悪臭ふんぷんとしていたが透明無色のさざなみがさんざめいているみぎわはかいれいになっていてはくいろに閃爍する砂粒に埋没した七色の貝殻たちがゆうすいと明滅していた。片腕の金城ひろは愛妻である金城かなえとともにビニール・シートとパラソルを設置する。金城ひろは右手で一鬼の左肩をたたいていう。いわく「絶対におぼれるなよ。おれはこの腕だしかあさんは『かなづち』だからな。おまえがおぼれたらおれはたすけにいっても死んでしまう」と。

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