　そこでとびらがひらいた。

　白銀の鉄扉は静（せい）謐（ひつ）としながら左右にすべっていった。金城はおもう。地獄の門のとびらをたたいてはいけないんだ。喧（けん）喧（けん）囂（ごう）囂（ごう）侃（かん）侃（かん）諤（がく）諤（がく）としていた賓客たちはようやく沈黙する。完全にひらいた鉄扉のむこうには灰褐色の迷彩服を纏（てん）繞（じよう）させ特殊部隊用のハンドガンやヘッドギアを装着した数人の部隊が彳（てき）亍（ちよく）していた。清（せい）穆（ぼく）なる白衣のうえから右胸郭を射撃された研究所主要研究員の右手の親指を掌握したひとりの部隊員が指紋認証を解除したらしい。百鬼夜行の部隊員たちは颯（さつ）爽（そう）と研究室内に闖（ちん）入（にゆう）し研究員たちや賓客たちに銃口をむける。拳銃や散弾銃や小機関銃など装備している製品はグリーンベレー＝米軍特殊作戦グループ用やGIGN＝フランス国家憲兵隊介入部隊用など千状万態で特定の国家の特殊部隊であるとはおもえない。共通しているのは部隊員がみな瓦（が）斯（す）マスクを装備していることだ。無論研究所が邀（よう）撃（げき）できるわけがないのでこの部隊が催涙弾やBC＝生物化学兵器などを使用する準備ができているのだろう。ひとりの部隊員が襤褸（ぼろ）襤褸（ぼろ）に罅（ひび）割（わ）れたスマートフォンをかかげてボイスメモに録音した音声を再生する。「わたしはいまいのちをねらわれている日本人です。わたしはこの組織と関係ありません。わたしはこの組織に命令されてこの文章を読んでいます。よく聴いてください。『われわれは局地的な武力行使を背景として諸君の開発した研究結果のすべてを回収させてもらう。すこしでも反抗的なる態度がとられた場合前述のとおりに局地的な武力行使を発動させてもらう。われわれの要求がのみこまれない場合にはわれわれのいのちをひきかえにする。つまり自爆行為によって諸君の研究成果を虚無に帰することとする』」と。部隊員は防弾チョッキをひらいて『中身』をみせた。小型だが研究室を破壊し関係者を鏖（おう）殺（さつ）するには充分なるかずのTNT爆薬だ。防弾チョッキをとじると部隊員はスマートフォンを抛（ほう）擲（てき）して小銃で射撃し羅（ら）利（り）粉（こつ）灰（ぱい）にした。