第22話 ゲームの終わりは?
俺様と伊里奈、貧乳女に無駄肉乳女がフロアに集まると、運営のアナウンスが入る。
《これより開催されるのは決勝戦。《デス・鬼ごっこ》です!》
《
明るくはつらつとした声で告げる運営。
スキル《王者の化身》を持つ俺様が
1分のカウントダウンののち、俺様は解放されて、子を追いかけることになる。
LP1000の貧乳女。
LP1200の無駄肉乳女。
LP7600の伊里奈。
どれを見てもかなりの強敵である。
俺様は追いかけて捕まえようと足早に周囲を探るが、いくら女子とはいえタイムラグが邪魔をする。だが、相手だって人間だ。疲れてどこかで休むに決まっている。
俺様が子ならまず間違いなく、どこかで身を潜める……。が、俺様が傷跡や塗料のすり減り具合で場所を特定できることも知っているだろう――。
傷跡が見える。
――知って。
ん?
これは貧乳女の靴の跡だ。
まさかな……。
俺様はひっそりとその足跡をたどる。
廃校だろうか。学校の廃墟に足を踏み入れる。
足跡によるとこの教室のロッカールームか。
きぃと甲高い音が鳴り、その中に怯える貧乳女を見つける。
「……マジかー」
「み、見つかっちゃった!?」
俺様は頭が痛くなる思いで、貧乳女の肩に触れる。
《
アナウンスがなり、カウントダウンが鳴り響く。
「お前、バカか?」
「な、何よ!?」
「俺様と伊里奈は塗料の剥げ具合で場所を特定できるんだよ」
さーっと血の気が引いていく貧乳女。
逃げるように――というか逃げていく九条。
理解していなかったのか。
1分の待機時間を終えて俺様は周囲を見渡しながら子を探す。
次に向かったのは廃墟になった建物。
陽光を受けて煌めく埃が舞う中、俺様は足跡を頼りに歩き出す。
どうやら無駄肉乳女はここを通ったらしい。
というか、なんで伊里奈の足跡は残っていないんだ? あいつ天才すぎるだろ……。
妹に対する思いを乗せてため息を吐きながら扉を開けると、その先にいる無駄肉乳女を捕まえようと、手を伸ばす。
「捕まらないんだから!」
それをくるりと回避されて、俺様が足を伸ばす。
足を引っかけると、転倒する無駄肉乳女。
俺様はその足をつかむ。
《ニーナ=プロシン、鬼に捕まりました! スキル《王者の化身》により、鬼は引き続き
なんの面白みもないアナウンスがなり、無駄肉乳女のLPが500削れていく。
残りLP700。
「く。あんたなんかに負けるなんて。あんたがいなければ誰も犠牲にならずにすんだのに!」
「おいおい。てめーよりも伊里奈が固めていたプランなら、半家も犠牲にならずにすんだんだよ。てめーは従う相手を間違えた。そうだろ?」
「バカじゃないの? あの子に全部を背負わせる気?」
ぐっと言葉を呑み込む俺様。
背負わせる? 伊里奈に?
俺様はそんなつもりはない。
だが、引っかかるものがある。
「その覚悟もなしでなんでデスゲームなんてやっているのよ!!」
そう言い残し無駄肉乳女は離れていく。
待機時間を終えると、俺様はさっそく次のターゲットを探す。
と。
「これで終わらせてあげる」
無駄肉乳女の手にはトランプが握られている。
――そうだった。トランプによる攻撃が可能だった。
これがこの《デス・鬼ごっこ》の
「スキル《数値操作》。スキル《
持っていた10のトランプが光り、100の数値に操作される。
そしてスキル《
時間差制限によるLP減少系スキル。
それにより、俺様のLPが300から200へ。そして毎時10LPの減少。
鎮魂歌の流れるAR世界に、カードから発せられた光がこちらを包む。
「こいつ!」
俺様は手を伸ばすが、運動神経が良い無駄肉乳女は回避する。
先ほどは出入り口が狭かったからかわせなかったが、ここは廊下のようなところ。
奥へと逃げることが出来る。
マズい。
このまま逃したらどんなことになるか。
俺様は慌てて追いかけるが無駄肉乳女は窓から
その圧倒的な速度に舌を巻く。
「くそ。逃がすかよ」
俺様は声を荒げて、そのあとを追う。
無駄肉乳女を見つけると、すぐに走り出す。
でも引きこもりのニートだった俺様にとって、それは過酷なこと。
200m走でも30秒はかかる遅さだ。
勝てるわけがない。
途中で諦めて走るのを止める。
だが、伊里奈も言っていたとおり、走り続けられる人なんているわけがない。そこが狙いどころだ。
休憩中を狙う――。
それしかない。それが体力のない俺様たちにできる戦い。
しかし、このゲーム。
どこで終わりだ。
俺様を狙ってくる無駄肉乳女。
もしかしたらまたもトランプでせめてくるかもしれない。
しかし、この《デス・鬼ごっこ》は一筋縄ではいかないかもしれない。
先ほどのように反撃される可能性だってある。
それもトランプの数値は基礎であって、条件次第ではスキルでの底上げが可能。しかも、複数のスキルを重ねることで強力な攻撃が可能になる。
今はスキル《
どうする?
貧乳女と無駄肉乳女はあと一回ずつ捕まえれば、勝てる。
だが、伊里奈は?
俺様と伊里奈が同時に勝てる作戦が思い浮かばない。
いや、運営はそれすらも見抜いているだろう。
このゲーム、俺様は絶対に勝てない。
《午前の部、終わります。これより1時間のインターバルを挟みます》
運営の無慈悲な声を聞き、俺様は途方に暮れる。
もう、諦めてもいいだろうか?
俺様は伊里奈とは一緒にいられない。
正午になり、俺様たちは3階にあるフロアで、レストラン形式の食事がとれるらしい。
ステーキや焼肉、生姜焼きなどがある他、スイーツにもかなりの種類を取り扱っている。
「~~♪」
嬉しそうに鼻歌交じりにメニューとにらめっこしている伊里奈。
俺様は視線を落とし、肉を見る。
注文すると、伊里奈の前にはカヌレやマドレーヌを始めとするスイーツが並ぶ。
美味しそうに頬張ると、足をばたつかせる伊里奈。
もう十数時間でこの笑顔が見られないのか。
俺様の息の根は止まる。
あのギロチンと同じように俺様も――
「ん? お兄様、食欲……ないです?」
「……あぁ。ちょっとな」
目の前のステーキを食べる意欲すら湧かない。
俺様はもう限界だ。
「なあ、伊里奈」
「?」
「俺様が死んでも伊里奈は生きろ。そして生き続けてくれ」
「なんで」
か細い声でこちらを見やる伊里奈。
「なんで、そういうこと、言うノです……?」
じわりと目尻に涙を浮かべる伊里奈。
「なんで、そんなこと、言うのです?」
「いや、だって俺様は……」
今まで散々迷惑をかけてきた。
俺様は伊里奈に助けられてばかりいた。
それなのに俺様は疫病神で、死神で……。
誰を助けることもできない、不幸ものだ。
こんな俺様と一緒にいればいずれ伊里奈にも不幸が起きる。
そんな気がする。
だから――。
俺様は二人を生け贄に、伊里奈を生かそうと思う。
完璧で可愛い妹が生きれば、俺様も、死んだ家族たちも報われるだろう。
「そんなお兄様、嫌い!!」
張り裂けそうな声で、顔で。伊里奈の中でも最大の音量で、声を荒げる。その顔には悲壮がにじみ出ていた。
スイーツを食べ終える前に、伊里奈は遠くへ走り出していた。
その後を追うほど、俺様はできた人間ではなかった。
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