第18話 復帰
俺様はカジノゲームで1800LPを獲得すると、早速1500LPを消費して復帰する。残りLPは300だ。
そして貧乳女や無駄肉乳女、妖怪女、博士、そして伊里奈を見つけると、顔を綻ばせて俺様は前に進む。
「お兄様!」
伊里奈が抱きついてくる。
ちょうど胸の辺りに頭がすっぽりと収まる。
「よしよし」
俺様は伊里奈の頭を優しく撫でると、目の端に涙を浮かべる。
「生きていたのね。龍彦」
貧乳女が目尻に雫を浮かべて駆け寄ってくる。
「お前、生きてやがったか!」
ゴリラもどこか嬉しそうにしている。
「……どうして?」
無駄肉乳女は頭が良いのか、感情よりも先に理性が来るらしい。
「ああ。スキル《敗者復活戦》。これが敗者になっても、もう一度チャンスをくれる。最高のスキルだ」
「じゃ、じゃあ! 半家や眼鏡くんも!?」
貧乳女は嬉しそうにツインテールを跳ね上がる。
「いや、それは……」
言葉に詰まる俺様だったが、言わなくちゃいけない。
「眼鏡は生きているが、半家は……」
「……そう」
悲しそうな笑みを浮かべる貧乳女。
「でも、良かった。眼鏡くんと龍彦が生きてて!」
「もしかして、半家くんと何かあった?」
勘のいい無駄肉乳女が鋭い視線を向けてくる。
「あ……」
「あったのね? もしかして、あなたがゲームで打ち負かし、殺してしまった、とか……?」
「……」
無言を答えにしたが、表情に出ていたらしい。
「あんたが殺したのね。鎌をかけて正解だったわ」
「おい。龍彦の兄貴よ。本当か?」
ゴリラの目も厳しくなる。
「それって、もう帰らない人に?」
博士も不安そうに訊ねてくる。
「すまない。だが、生かそうとしたんだ。それだけは分かってくれ」
俺様は血のにおいを思い出しふらつく。
幸い伊里奈が支えてくれたが。
「ふざけないで! あんたのせいでメチャクチャよ。私の考えた計画通りにしていれば、誰も死ななかったのに!」
それだけの求心力がないだろ。
口にはしないが無駄肉乳女の言っていることは理想論だ。現実味がない。
運営がこのデスゲームを仕掛けたときから、俺様たちの経歴を調べている。
みんな、一様に酷い人生を送り、さらには恨みや嫉みが生まれるようにしている。
これでは一緒に手を取り合うことは難しい。
互いに傷つけるだけの理由がある。
過去がある。
陰惨な人生がある。
他人を押しのけてでも、生きようとあらがっている。
そんな奴らを集めたのだから、少しくらいの犠牲は仕方ない。しょうがない。
そう思わせるだけの背景がある。
まるで誰かに操られているかのように、全ての参加者に陰がある。
俺様はそのまま昼休憩に入り、みんなと一緒にビッフェで肉を集めてトレーにのせる。
「やっぱり食事はこっちの方が豪華だよな」
「あっちはどうだったの、です……か?」
伊里奈は相変わらずスイーツを集めて訊ねてくる。
「ああ。大変だったよ」
それから敗者の食事や対応をしゃべりつつ、食事に舌鼓を打つ。
「良かったね。伊里奈ちゃん」
貧乳女が隣の席に座り、不敬にも伊里奈に話しかける。
敵意や悪意に敏感な伊里奈がそう簡単に話すとは思えない。
が――。
「うん。良かった、です……」
「は、反応した、だと……!!」
マンガなら劇画タッチになっているところだ。
どうやら貧乳女への警戒は軽いようだ。
「とも、だち。なのか……?」
まさかと思い訊ね、ゴクリと生唾を飲み下す。
「え。あたしは友達のつもりだよ」
「うん。少し友達、です……」
「す、少し、だと……!」
伊里奈には友達ができたことがない。
大抵の人間の邪念を感じ取ってしまうからだ。
でも貧乳女にはそれがない。
そんなことがあるのか?
バカな。あるはずがない。
人間である以上、若干の邪念が入ってくるのが当たり前だ。
それに俺様や伊里奈は恨みや嫉みを買ってきた。
にも関わらず、偏見や嫉妬が生まれないわけがない。
「おい。お前。どういうつもりだ?」
俺様は勢い余って貧乳女の腕をつかむ。
「いたい。離して」
「あ。すまん」
「何よ。楽しく話していて文句あるの?」
「いや、だがな……。あの伊里奈だぞ?」
「ふふーん。あたしだってバカじゃないわ。彼女が嫌いになることはしないわよ」
「ん。九条さんは、バカ、です……」
「「え!?」」
俺様と九条の声が重なる。
「ねぇ。どういう意味よぉ~!」
くじょ……貧乳女が伊里奈の肩をつかみ揺らす。
まあ、こんな奴もいるのか。
俺様たちからすれば驚くような性格だな。
昼休憩が終わり、午後のゲームが始まる。
俺様はスキル《王者の化身》を再活性化させて、親としてデスかくれんぼに挑む。
ここで1500LPを稼がなくちゃいけない。
これ以上の犠牲はないと信じたいな。
今は300LPだからあと1200か。
やってやるさ。
「伊里奈。みんなのLPを教えてくれ」
「うん」
伊里奈は
貧乳女が1200LP、無駄肉乳女が1400LP、妖怪女が820LP、ゴリラが910LP、博士が1090LP。
なら誰を犠牲にしてもいいってことか。
俺様は見た目の体重と筋肉量から圧力を計算。削り取られた塗装と、傷跡から個人を特定。
無駄肉乳女と博士を見つける。
俺様が200LP稼ぐが、見つかった無駄肉乳女はLPが1350、博士が1040LPに変動する。俺様の合計LPは500。
まだだ。
このゲームをクリアするには最低でも1500LPが欲しい。
ゲームが終わり、俺様と伊里奈が自分の部屋に戻る。
「しかし困ったぜ。あと1000LPかよ」
「ん。お兄様ならできる、です……」
ちなみに伊里奈のLPは8000ある。
どうやったらここまで稼げるのか分からない。
スキルの重ねがけと、彼女が持つ感覚でできたのかもしれない。
しかし、伊里奈がリーダーとして活躍すれば誰も死ななかったじゃないか?
あの半家も死なずに……、
そこまで考えて頭から追いやる。
止めろ。
もう死んだ人間は生き返らない。
俺様がとらわれていたら、いつまでもこのゲームに勝てない。
だが、もし……と考えてしまうのは人間だからか。
過ぎた時間にもしもはない。
ふかふかなベッドに沈みこむと泥のように眠る俺様。
◇◆◇
やっぱり、彼はあのとき助けてくれた人だ。
あたしを助けるために腹部に大きな怪我を負った。
ちらりと肌が見えたけど、そこに傷跡があった。
あたしの見間違いじゃなければ、あの人はあたしの運命の人。
このあたしが顔を見間違えるわけがない。
後でお礼のために彼の家に行ったけど、父親が首をくくって自害。
残された二人の子は追われるようにして家を出て行ったと風の噂で聞いた。
彼らが生きていた。
それだけでも嬉しい。
あたし、やっぱりあの人が好きみたい。
彼女には警戒されているけど、いずれ……。
もうあたしったら何を考えているよ。バカ。
でももう会えないと思っていた。
辛い思いをしてきた彼ら。
少しでもあたしが支えになったら。
気持ちを寄り添うことができたら。
あたし、そのために頑張る。
そのために生きる。
だってこれは運命だもの。
あたしの小指の赤い糸は結ばれていたんだよ。
染め上げていた長い髪を揺らし、シャワーを浴びる。
この胸の高鳴りは嬉しく、心地良い。
もうこのゲームが始まって一ヶ月が経とうとしている。
「早く終わらせて。このゲームを」
ゲームである以上、クリアできるに決まっている。
でもいつまでも《デスかくれんぼ》を行っているのが信じられない。
こういったゲームってある程度、種類が変わるものじゃないの?
あたしには分からない。
なんでみんな争うのよ。
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