第4話 デスかくれんぼ

 情報収集も終えて、自分の部屋に戻る俺様と伊里奈。

 他の面々も同じように休息がほしいらしい。

 建物の10階にあるビュッフェ形式の食堂に行くと、俺様は迷わず肉を皿に盛り付けていく。

 が……。

「お兄様、サラダも……とりましょう……」

 そう言ってサラダを盛り付けていく憎き妹。

 いや、俺様の血をサラサラにしたいのだろう。

「しょうがねーな」

 横にいる伊里奈を見やると。

「いや、伊里奈もスイーツばかりじゃないか……」

 短足混じりの吐息を漏らすと、妹は不機嫌そうに顔をうつむく。

「だって。なかなか……食べられそうに、ないんです……」

 頬を膨らませて抗議する妹だが、俺様は気にした様子みせずに、サラダを取り分けていく。

「お前が言ったことだぞ」

「むー。わかって、います……」

「やあやあ、やっぱり二人は仲良しだね」

 みんなから博士と言われていた白衣の少女が駆け寄ってくる。

「ワタシ史上、最高のペアみたいだね!」

「お。わかってくれるか? 博士」

「そうだとも。君らは最高に危険な存在だ。早めに対処しなくては」

 なんだ。俺様への宣戦布告か?

「その目だよ。幾多の修羅場をくぐり抜けてきた目。もしかして、こういったデスゲームに参加するのは初めてじゃないでしょ?」

 こいつ。俺様の表情だけで、ここまで読み取るとは。

「いけすかねーやつだな。ぶっ飛ばすぞ?」

「それは困る。せっかく集めた食料が台無しになってしまう」

「はん。自分の心配より飯の心配かよ」

 俺様は呆れるようにため息を吐く。

「いいじゃないか。ワタシだって痛いのは嫌だ。でも君たちの力を借りたいのさ」

 そこで俺様と伊里奈を見て、さらに続ける。

「なら、こちらもそれなりの実力と誠意は見せないと」

「なるほど。それで俺様の表情から過去を読み取ったわけか」

「そうそう! ワタシ史上最高のパートナーになってくれそうだからね!」

 博士は嬉しそうに体を揺らす。

「ち。まあいい。今だけは信じてやるよ」

「ありがとう。これでしばらくは生き延びそうだよ」

 博士はそれだけを言い残して、席につく。

 俺様と伊里奈も近くの席に腰を掛けて食事にありつく。

 変な奴らばっかだが、これからどんな試練が待ち受けているのか。

 不安と期待で胸がいっぱいになる。

 俺様は絶対に勝つ。勝って悠々自適な生活を送るのだ。

 できれば彼女もほしいし……。

「む。不埒なことを考えて、いる……です?」

 伊里奈が訝しむような視線を投げかけてくる。

「いや、別に……」

 俺様はコーヒーをすすりながら、遠くを見つめる。

 言葉を交わしてきたが、俺様は伊里奈以外は敵だと思っている。

 それでも博士のようなやつも表れる、か……。

 俺様の実力なら、ここにいる全員を脱落者にすることは可能だ。

 だが、もう少し様子を見よう。それにこれはだ。楽しまなくちゃいけない。

「お兄様、少し、気持ち悪い……です」

 俺様のにやけづらを否定するのは妹だけだ。

「あんなやつに……」

 そんな声が聞こえてきた。

 どうやら半家はげが言ったらしい。

 はん。俺様の実力がわかっていないらしいな。

 最初のチュートリアルをクリアしたのは俺様のおかげだぞ?

 なぜそれがわからない。

 なぜ敵意を向けてくる。お前も無駄肉乳女のような愉悦系なのか?

「生意気なんだよ。シスコンが」

 こちらに聞こえるように言っているのか、それとも聞こえないと思っているバカなのか。

 俺様はコーヒーのおかわりをもらおうと席を立つ。

 コーヒーを注ぎ、半家のそばを通る。

 そして――。

「おおっと。すまん」

 俺様はコーヒーを盛大に零す。

 それも半家の頭に向けて。

「あちっ! オメーなにすんだよ!」

「はん。貴様が始めた物語じゃねーか。てめーもぶっ潰してやろか?」

「オメーごときが偉そうに!」

 半家の拳をかわすと、その手をつかんで、勢いのまま、ぶん投げる。

 半家はバランスを崩し、ゴリラの麻婆豆腐に頭から突っ込む。

『あー。喧嘩はやめてください。これから一週間、ともに過ごす仲間じゃないですか』

「一週間も拘束されるの……」

 貧乳女がこの世の終わりみたいな顔をしている。

『これからのご予定ですが、この後午後二時から次のゲームを始めます。皆様、どうぞ楽しいひとときを』

 そう言って館内放送は終わる。

 ショックでフラフラしている貧乳女。

 よく見ると新しい靴に見える。

 履き慣れていないのかもしれない。

「おう。その靴どうした?」

 俺様は小声で貧乳女に尋ねる。

「え。これ?」

 困ったように小首をかしげ、指をおとがいに当てる貧乳女。

「ニーナちゃんがくれたんだ。かっこいいしょ!」

「ああ。そうだな」

 そう来たか。なるほど。

 靴をいくつかシャッフルすることでこちらの計算を狂わせるつもりか。

 本当に俺様に対抗する気なのか。あいつは。

 なら、とっちめてやるぜ。

 本気にさせた俺様がどれだけ怖いのか、やつにたっぷりと教えてやる。

 その身をもって味わうがいい。

 俺様と伊里奈の最高のコンビが行う、最強のゲームってやつを。

 ゴリラと半家が言い争いをしているが、俺様はそれを無視し、伊里奈のもとに戻る。

「飯、食ったらいくぞ」

「何年ぶりかのスイーツ……美味しい、です……」

 そういやぁ、久しぶりか。

 まともな食事をしているのは。

 いつも引きこもっていたから、カップ麺とか、出前とかが多かったもんな。

 感動で涙を流して食べている伊里奈を見て、俺様も食事に手を付ける。

 久々に食べた肉は言いようのないほどの美味しさだった。

 食事が終わり自分の部屋に戻ると、時計を見る。

 確か午後二時だったな。

 それまでは暇か。

 室内に取り付けてあった、トランプを見つけて、俺様は伊里奈を誘うことにした。

「よう。伊里奈。俺様と久々にトランプしねーか?」

「はい。いい、です……よ」

「負けても泣くなよ」

 俺様はそんな枕詞を言い、トランプを始める。

 大富豪。

 ブラックジャック。

 スピード。

 七並べ。

 ババ抜き。

 どれをとっても伊里奈の圧勝で終わる。

 さすが伊里奈。

 最強のゲーマー。

 俺様の愛すべき妹。

「はん。次こそは勝ってやるからな!」

「お兄様は、勝てない、です……」

 いつも言われて慣れているが、俺様の取り柄はチャレンジ精神にある。

 なんどでも勝つまでやめない精神性だ。

 それを見せつけてやる。

 俺様は絶対に勝つ。

 勝ってあの無駄肉乳女を見返してやる。

「さて。そろそろ時間じゃね?」

「うん。そろそろ、です……」

 相変わらずマイペースで丁寧な言葉を使う妹だ。

 俺様たちはロビーにあるモニターに目を向ける。

 他にも貧乳女や半家、ゴリラ、博士が集まっている。

 自分の部屋で見ることもできるのだが、そんな気はないらしい。

 無駄肉乳女も隣にやってきて、口を開く。

「さて。どんなゲームかしらね。あなたの地に這いつくばる姿を見るのが楽しみだわ♪」

「うっせー。勝手にほざいてろ」

 俺様は真面目に取り合おうともせずにモニターを睨む。

 モニターに光が差し込み、ぱっと画面が明るくなる。

『皆様、おまたせしました』

 その画面には黒装束の男が一人。

『これより、デスゲームの本格的な開始を宣言します』

「やっぱり、あのかくれんぼはチュートリアルか」

 俺様は赤べこのようにこくこくと頷く。

『これからやってもらうゲームは――』

 情感たっぷりに言い含める運営。

『真・デスかくれんぼです!』

 それを聞いた俺様はピクリと眉根を跳ね上げる。

 チュートリアルと同じゲーム。いや『真』とつけているのだ。何か違いがあるのだろう。

 運営の言葉を待つことにした。

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