第3話 第一ゲーム終了

 パタンと扉が開く音がする。

 隣の小部屋らしい。

 赤の部屋には誰もいなかった。

『おおっと! 誰もいませんでした! 残念!』

 運営は何がなんでも脱落者を出したいらしい。

 だが、俺様の立てた計画は無事かなったらしい。

「バカにしないで。わたくしだって節度はあります」

 そう言って白の小部屋を開ける妖怪女。

『おっと! またしても誰もいない!? どうなっている!?』

「終わったわよ。龍彦君」

「ああ。ありがてぇ」

 そう返し、運営が声を上げる。

『隠れていた人は小部屋から出てもらいます!』

 小部屋から俺様は出ていく。

 そしてそのあとを

「まじで緊張した」

 貧乳女がぐでっと項垂れるようにしている。

「あら。あなたは信じていなかったのかしら?」

「妙なフェイントをやっただろ? 音子の姉御」

「あら。悪い?」

 これは天然ドSなやつだ。テレビで見たことある。

『これはいったいどういうことでしょう!? みんな青色の部屋から出てくるではありませんか!?』

 そう。この《ゲーム》の攻略法はいたって簡単。

 単純に一つの部屋に集まり、鬼がそれを見逃すこと。

 そうすればみんな傷の舐め合いができるってわけだ。

 ルール上はなんの問題もない。

「はん。くだらない《ゲーム》考えているんじゃねーよ」

『ははん。言いましたね。これからが本番です』

 スピーカーから聞こえる声は意気揚々としている気がした。

『その前にいったん休憩です』

 肩透かしを食らった気持ちでずっこける一同。

 俺たちは十階のロビーに辿り着くと、割り振られた各部屋に入っていく。

 俺様と伊里奈は同じ部屋らしく案内された。

「ここにいる限り、VIP待遇を約束しますよ」

 案内人がそう言い、ルームサービスのメニュー表を渡してくる。

「なんか食べるか?」

 俺様は優しいから伊里奈に尋ねる。

「ん。ショートケーキが……食べたい、です……」

「わかったぜ」

 俺様はルームサービスで頼むと美味しそうなケーキが運ばれてくる。

「しかし、俺様たちはどうやって生き残るか……」

「大丈夫。手はあります……。それに……お兄様は気がついている、のです……」

「ああ。バレてたか」

 くくくっと魔王笑いを浮かべる俺。

 ケーキを頬張る伊里奈は顔色一つ変えない。

「お兄様はずるいお人なのです……」

「くくく。ちげーねーよ。まあ、いざとなったらお前に頼るがな。天才少女」

「思ってもいないことを、口にするのです……」

「ま、お前が天才なら俺様は超弩級の天才だな!」

 そのあとも会話をしながら、ロビーに出る。

 俺様と同じことを考えていたのがいたのか、いくつかのグループは情報収集を始めていた。

五里ごりさんは生魚が苦手なのね」

 あっちでは博士とゴリラが話し合っている。

「ふふーん。あたし九条くじょう理彩りさが来た!」

「さて。話し相手を見つけるか」

 貧乳女から逃げるように俺と伊里奈は離れて――

「ちょっ! ちょっと待ちなさいよ!」

 貧乳女は逃げる俺様たちの洋服を引っ張る。

「なんだよ。貧乳女」

「あたしの名前は九条くじょうです! 貧乳じゃありません!」

「安心しろ。貧乳はステータスだ。貴重価値だ」

「全然褒められている気がしないのだけど!?」

 大げさに仰け反る貧乳女。

 ま、俺様も心にもないことを言っているからな。

「お兄様は貧乳嫌い、ですか……?」

 伊里奈が不安そうにこちらを見てくる。

「いや、好きだな。やっぱり成長途中の膨らみかけが至高だ」

「お兄様、ありがと……」

 やや貧乳ぎみな妹を汚すことなどできない。

「いやいや、あんたどんだけ妹好きなのよ。シスコンこじらせないでよ」

 貧乳女がぐでっと項垂れている。

 誰がシスコンだ。世界一可愛い妹を侮辱する気か?

 ギロリと睨みを効かせると貧乳女は悲鳴を上げて丸くなる。

 ツンテールを揺らしてこちらを怖ず怖ずと見てくる。

「俺様の妹を侮辱するな。世界一可愛いんだぞ」

「た、確かに。伊里奈ちゃんは可愛い。でも世界一はあたしなんだからね!」

 立ち上がり指を突き立てて俺様に宣言する貧乳女。

「面白い。どちらが本当に可愛いのか、勝負するぞ」

「負けないんだからね!」

 ツンデレ貧乳女がそう言いながら髪を払う。

 その仕草をとっても彼女の魅力は存分に分かる。

 だが――。

「……お兄様、九条様、どうやって、決着……つけるのです……?」

 伊里奈が上目遣いでこちらに尋ねてくる。

 その姿が実に可愛らしい。

「いや、お前が一番だよ」

「くっ。悔しいけど、今回は負けのようね。覚えておきなさい! 伊里奈ちゃん!」

「は。何度でもかかってこいや! その度に打ち負かしてくれるわ!」

 俺様は唾を飛ばす勢いで貧乳女を追い返す。

「ねぇ。……情報、収集は……どうするの、です……?」

「あ」

 俺様は時々抜けている時がある。

 それは伊里奈の言葉だが、今まさに痛感しているしだいである。

「あら。龍彦たつひこくんと伊里奈さんじゃない。どうしたの? 腐った鯛焼きみたいな目をして」

「それを言うなら、死んだ魚の目だろ? おめーはバカか?」

「あら。ウィットに満ちた素晴らしい冗談だと思ったのだけど?」

 無駄肉乳女がハーフツインの銀髪をさらりと流し、金色の瞳で覗いてくる。

「は。どうせならもっとマシな冗談を思いつけ。この腐れビッチが」

「ふふ。それで挑発しているつもり? お可愛いこと」

「どこかの竹とり姫かよ。貴様は」

「それならどんなに良かったことか……」

「ん。なんだ?」

「あら。気にしないで頂戴」

 ふふふと上品に笑いを浮かべる無駄肉乳女。

「しかし。まあ……。個性的なやつばかりだ」

「あら。あなただってその一人よ。た・つ・ひ・こ・くん?」

 無駄肉乳女が形の良い桜色の唇に指先をつけて、艷やかな表情を浮かべている。

「まぁ。冗談もほどほどにしておけ。てめーの内申点が下がるだけだ」

「ふふ。これで私が何を言ってもウソかホントか、分からなくなったでしょ?」

 ああ。なるほど。こいつはこちらの意見をはなっからうけめる気なんざねーんだ。

 こちらの思考回路をめちゃくちゃにして自分は高い場所からほくそ笑む。そんな人種だ。

 よく言われる愉悦と言うやつだ。

 無駄肉乳女が求めているのはスリルあるゲーム。

 デスゲームが怖いやつばかりだと思っていたがそうではないらしい。

 俺様たちと思考回路が違うのだ。

 このデスゲームを楽しんでやがる。

「あら。汗を掻いて、どうしたの?」

 その吸い込まれるようなサファイヤのような瞳がこちらを見据えて言う。

「ふふ。まあ、私がこのデスゲームを攻略するのだけど。龍彦くんには悪いことをするわ」

「……なんの宣言だよ?」

「いいじゃない。そっちの方が張りがあるわ」

 これだからスリルを求める連中というやつは。

 万引きやいたずら、犯罪というのに染めるやつの中にはそういった連中も多いとは聞くが。

 まあいい。

「俺様も握りつぶす相手がいて、高ぶっていたところだ。次のゲームで貴様を倒す」

 にたっと意地の悪い笑みを浮かべる俺様。

 その後ろで見ていた伊里奈はじっと無駄肉乳女を見やる。

「ん。そうね。伊里奈さんも一緒に片付けてあげるわ」

「わたしには勝てない……です……」

「それは、ますます倒したくなるわね」

 ふふふと上品な笑みを浮かべる無駄肉乳女。

「お兄様、この人強いです……」

 袖を引っ張る妹。

「ああ。わかっているさ」

 俺様も全力で叩いてみせるさ。

 なにせ、俺様と伊里奈は世界最強の一角なのだから。

 それを世界中に教えてやる。

 俺様たち、相羽あいば兄妹を舐めてもらっては困る。

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