004. Fly Sky
「とりあえず、逃げよう!私、あいつらに追われてるの!」
姿はまだ見えない。でも見たことない攻撃。轟く爆発の音。一体何が起きてるんだ?
「あっ、やばい。俺、脚が動かせない」
「あっ、そうだ。ヒース骨折してたね」
ドンと遠くからなった後、空に甲高いピューという音が聞こえた。ヒースにはその音がなんなのか分からないが、だんだん近くなっていることだけは分かった。
そして、何がが近くの木に落下して、爆発した。炎が上がり、爆風で目が開けられない。
「うわっ!!」
ヒースが両目を瞑った。瞬時にティーシャはヒースを抱えて走り出した。ヒースは体が浮いた感覚がして、目を開けると、ティーシャがものすごい速さで森を駆け抜けていた。
周りの景色がまるで線のようで、木々から溢れてくる日光がキラキラとティーシャを輝かせていた。
ティーシャはヒースを一旦地面に置いて、背負い、ヒースとティーシャを布で縛り上げた。
「よし!これで森を駆け抜ける!舌噛まないように、気をつけろー!」
ティーシャはニヤリと笑う。対してヒースは不安で仕方がなかった。無事に生きてこの場を乗り切れるのか??
そしてまた全速力で駆け出した。なんという速さだ。どんな運動神経しているのだろう??
後ろを振り返ると、鉄の塊に身を包んだ者たちが剣や弓、槍を持って進行してきた。鎧は銀色に光輝き、およそ20人くらい居る。
「な、なんだあれ??」
「あー!くそ!巻けたと思ったんだけどな!足跡もしっかり消したはずなのに、どうやって私を追いかけてきたんだ!くそ!」
ティーシャは降ってくる砲弾を見ずにそのまま走り切って逃げていく。
ドンドンと爆発音が鳴り響き、炎があちこちで上がっていて爆風が吹き荒れる。衝撃波が体の骨の髄にまで響き渡っている。
「あいつら容赦無いな!!こっちは子供背負ってるんだぞ??」
ヒースは後ろの光景にとても驚いていた。これが当たればおそらく死ぬだろうと悟った。ヒースは驚きのあまり、気を失った。
「ヒース??ちょいちょい!!ヒース!しっかりして!気絶してると舌噛み切っちゃうよ!」
走りながらティーシャはヒースのお尻を思いっきり叩いた。
「んぉあ!!!いてぇー!」
ヒースは目覚めた。お尻がヒリヒリとしている。
「やばいやばい!!早く逃げないとー!」
ティーシャは速度を上げていく。鎧を纏う集団は早くは追ってこない。しかしながら、砲撃が鳴り止まないので、急いで走っている。
ティーシャは倒れてくる木を避けて、飛んできた枝をはらう。ヒースは目を見開いて猛スピードで飛んでくる石や枝を避けている。この時に、目が良くて本当に良かったと、ヒースはつくづく思う。
その瞬間、突如すぐそばの木に着弾し、爆発した。その衝撃で枝や石が飛んできた。ティーシャは守りの態勢になってなんとか凌いだが、ヒースは顔にそれらが直撃した。
「痛い!!」
目の上を切って出血している。
爆風で二人の体は浮いた。
「大丈夫?ヒース!」
すると、飛んできた石でティーシャとヒースを縛り上げていた紐が切れた。
それに気づいた時、地面が突然無くなった。
「「あれ?」」
二人は声を合わせて呟いた。下を見ると、渓谷だった。暗い底にはうっすら水が流れているのが見えた。岩肌が左右に剥き出しになっていた。つまり、いま二人は空中に放り出されたのである。
ふわりと、体と内臓が浮いた感覚のあと、上からグワリと負荷がかかって勢いよく地面に向かって落ちていく。
「うわ〜〜〜!!!」
ヒースは地面を見ながら思いっきり叫んだ。その横でティーシャは嬉しそうに声を上げている。
「ヒャーー!!楽しい〜〜!!」
思いっきり笑った笑顔。太陽がティーシャの笑顔を輝かせていた。ヒースはその笑い方に見覚えがあった。リリーの笑い方にどこか似ていた。
その笑顔をヒースはただ眺めていた。
──それも束の間、一瞬で我に帰る。
「なんでそんな冷静なの??やばいよ!!死ぬよ!!俺たち死ぬって〜!!」
涙が上へと流れていく。顔の筋肉が上に引き上げられている。
「大丈夫!ヒース!!私に捕まって!!」
空中でティーシャは手を差し出した。ヒースはその手を全力で握ろうとする。
握り合うと、ティーシャはヒースを抱き抱えた。そして、ポケットから何が小さな銀色の円柱を取り出した。
ティーシャは強く握りしめると、円柱は瞬く間に伸びて、二メートルほどになった。その先には刃が上と左右に三枚生えてきた。
円柱から生まれた槍の先を、ティーシャは岩肌に突き刺した。
「止まれー!!」
瓦礫が衝撃で跳ね返っていく。二人の頭上では砂埃が立ち上る。揺れが骨折している骨に響いてとても痛いのを、ヒースは歯を食いしばって耐えていた。
徐々に落ちていく速度が遅くなり、なんとか止まった。
地上から三メートルほどの高さの地点で止まった。
「ふー。危機一髪だったね〜」
ティーシャは槍を抜いて、ヒースを抱えたまま地面に着地した。
「ヒース、大丈夫?」
「うん、なんとか」
しかし、ずっと全速力で走る人の背中に乗っていたことや崖から飛び降りたこともあり、ヒースはとても酔っていた。
ついに限界を迎え、胃酸が逆流してきた。ヒースは川へ向かって走り、綺麗さっぱりそれを放流する。
「あちゃー」
その様子を見て、ティーシャはおでこに手を添えた。
※
「いやー、あんな高いところから落ちたのかー」
ティーシャは上を見上げた。ヒースも上を見上げる。上から見た時はとても狭そうな渓谷だったが、地面についてみると、広い川が流れていた。河原にもいくつか植物は生えていることから、日光は当たると推測できた。
「とりあえず、上に向かって歩こう。ここを下っても、海だし、世界の端に行っちゃうからね」
ヒースは不意に下流の方を眺めた。
そうだ。ヒースはこの下流にある海辺で育った。世界の端から、村のあるところまでは来たんだ。先へは進めている。
ヒースは下流の景色を背に、振り返った。
「うん!行こう!上流の方へ!!
……あと、背負ってください」
ヒースは顔を赤くして頼み込んだ。
「顔赤くしすぎだよ。いいよ、背負っていく。
今日は歩いておきたいからね。見つかったってことは、奴らも私たちの場所はだいたい把握しているだろうし、まだ夜じゃないから、動いておこう」
ティーシャはヒースを背負ってまた歩き始めた。
ヒースとティーシャの逃亡はまだまだ始まったばかりだ。
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