　敵国はまだ『あきらめていない』。

　それどころか総大将トルーマンが躬（み）自（みずか）ら生命を抛（ほう）擲（てき）して魂（こん）魄（ぱく）接続するというのだからいかなる天使を操縦してくるかわからない。熾（し）天（てん）使（し）ミカエルを凌（りよう）駕（が）する天使をもちいてくるかもしれない。事態は最悪をむかえた。邃（すい）古（こ）の基（き）督（りすと）と同様に頭（とう）顱（ろ）に月（げつ）桂（けい）冠（かん）をかぶり聖布のかわりに白布をまとったトルーマン大統領が亜（あ）米（め）利（り）加（か）教国軍教会部隊の聖職者たちによって両手のひらの『接続機関』に釘（くぎ）をうたれて十字架型接続端末に磔（たつ）刑（けい）にされるとトルーマンの肉体は渦巻くトーラーの文字列へと豹（ひよう）変（へん）し『華（わ）盛（しん）頓（とん）D.C.の大地』へとのみこまれていった。これはただごとではない。造次顛（てん）沛（ぱい）もなく絢（けん）爛（らん）豪（ごう）華（か）なる華（わ）盛（しん）頓（とん）D.C.の大地はマグニチュード九クラスの激（げき）盪（とう）におそわれた。櫛（しつ）比（ぴ）する摩天楼をことごとく轟（ごう）然（ぜん）と崩壊させてゆき母性たる大地を砂（さ）礫（れき）状に破砕し黯（あん）黮（たん）たる地下より赫（かく）奕（やく）たる光明を閃（せん）爍（しやく）させあらわれたのだ。『神』が。七日間で天地開（かい）闢（びやく）せしめ土（つち）塊（くれ）より人類を誕生せしめ全知全能の力によって全宇宙＝窮極集合を統治するといわれる『神』が。窮極の唯一神『ヤハウェ』があらわれたのである。人類の父親たるヤハウェは天空にとどかんほどの巨大な筋骨隆（りゆう）隆（りゆう）の若者の肉体でありそれでいて頭（とう）顱（ろ）は白髪と白（しら）髭（ひげ）をなびかせる儁（しゆん）異（い）たる老（ろう）爺（や）の顔（がん）貌（ぼう）であり首許（もと）から大地へとたれさがる七色の綾（りよう）羅（ら）錦（きん）繍（しゆう）をまとって澌（し）尽（じん）灰（かい）滅（めつ）した華（わ）盛（しん）頓（とん）D.C.の廃（はい）墟（きよ）に聳（しよう）立（りつ）していた。『エゼキエル書』によれば唯一神の風（ふう）丰（ぼう）は『定義不能』なはずだったが『神は御自らに似せて人を造りたもうた』というふうに皮膚のいろは千変万化するが生老病死を凌（りよう）駕（が）した『完璧なる人間』に類似するすがたをしており荘厳ながら『舐（し）犢（とく）之（の）愛（あい）』の横（おう）溢（いつ）した摩（ま）訶（か）不（ふ）思（し）議（ぎ）なる両目で宿敵たる九（く）頭（ず）龍（りゆう）大明神を仰視しながらいった。いわく『朕の『愛』を理解せぬ邪宗の神よ。朕の『愛』の名前のもとに死ぬがよい』と。