　ミカエルは激痛の顔（がん）貌（ぼう）で絶叫する。

　操縦者のトヨヒコ・カガワも左腕を喪失したはずだ。金城大尉の微衷を披（ひ）瀝（れき）するかたちでスサノオノミコトも怨（えん）嗟（さ）のこえをあげる。「はずしたか」と。この一撃でミカエルを殲（せん）滅（めつ）するはずだったのだ。作戦が失敗しふたたび永（えい）劫（ごう）の惣（つつ）闇（やみ）になった世界にて一瞬の雷（らい）霆（てい）で位置関係を知（ち）悉（しつ）したウリエルが複雑怪奇に飛（ひ）翔（しよう）したらしく大地よりうまれた聖剣でツクヨミの肉体を袈（け）裟（さ）切りにした。ふたたび颱（たい）風（ふう）状に暗闇が渦巻き世界は燦（さん）爛（らん）たる太陽のもとに可視化される。ツクヨミは読（どく）誦（しよう）を断絶されて滂（ぼう）沱（だ）たる鮮血をながしながら太平洋に墜落してゆく。翩（へん）翻（ぽん）として作戦を変更したタヂカラオは御名どおりの膂（りよ）力（りよく）と怪力でウリエルを羽交い締めにしウリエルの頭（とう）顱（ろ）を鷲（わし）掴（づか）みにしへしおった。ウリエルもまた無力にも太平洋に墜落してゆく。タヂカラオが力戦している最中颶（ぐ）風（ふう）と治癒の天使であるラファエルは左手の薬草の霊威によって上官ミカエルの左腕の創（そう）痍（い）を治癒した。ラファエルの治癒能力があっては不利だとさとったのかタヂカラオは臨機応変にラファエルを雁（がん）字（じ）搦（がら）めにして脊椎を截（せつ）断（だん）する。同時に生成と水の天使であるガブリエルが瀲（れん）灔（えん）たる太平洋の怒（ど）濤（とう）をあやつり竜巻状の洪水にしてラファエルの亡（な）骸（きがら）もろともタヂカラオを溺死させ太平洋の藻（も）屑（くず）とならしめた。儵（しゆつ）忽（こつ）として激怒したタケミカヅチは自家薬籠中のものである雷（らい）霆（てい）でガブリエルの心臓を一撃にした。そこに『隙』ができた。いつしかガブリエルの蔭（かげ）にかくれていたミカエルが白銀の槍（やり）でタケミカヅチの心臓をつらぬいたのである。斯（か）様（よう）にして最後にミカエルとスサノオがのこった。スサノオはさけぶ。「大明神様全日本人のみなさん。不肖金城がかならず『道』をひらきます」と。ミカエルはつづけて獅（し）子（し）吼（く）する。「邪宗のものどもよ。この賀川豊（とよ）彦（ひこ）が『死線』を越えさせんぞ」と。蒼（そう）穹（きゆう）にてミカエルとスサノオはおたがいの一瞬の『隙』をねらうために沈黙した。一分がたった。十分がたった。三十分がたった。三十三分がたった爾（じ）時（じ）である。スサノオとミカエルは同時に光速と同等の迅（じん）駛（し）さで二重螺（ら）旋（せん）をえがいて飛（ひ）翔（しよう）し脳天から脹（ふく）ら脛（はぎ）までの筋肉を緊張させて意識を相手の一挙手一投足に集中させ剱（つるぎ）で斬って槍（やり）でつらぬいて戦い戦って剱（つるぎ）と槍（やり）でおたがいの心臓をつらぬいた。二柱の神と天使は抱擁しあう戀（こい）人（びと）たちとおなじかたちでおたがいの桎（しつ）梏（こく）となったまま無涯無辺の太平洋へと墜落していった――。