　爾（じ）時（じ）であった。

　日本列島各地の大地が揺れはじめた。

　沖縄・九州・四国・近畿・関東・佐渡島・東北・津軽・北海道に震度七の激（げき）盪（とう）を猛襲せしめ堅（けん）韌（じん）なる大地を罅（ひび）割（わ）れさせ因（いん）陀（だ）羅（ら）網（もう）の河川を氾濫させ櫛（しつ）比（ぴ）する霊峰のかずかずを轟（ごう）然（ぜん）と崩壊せしめ無（む）辜（こ）の百黎（れい）の起（き）臥（が）していた家屋という家屋を羅（ら）利（り）粉（こつ）灰（ぱい）にし火炎焱（えん）燚（いつ）たる大火事を惹（じやつ）起（き）し四（し）衢（く）八（はち）街（がい）という四（し）衢（く）八（はち）街（がい）を澌（し）尽（じん）灰（かい）滅（めつ）させ嚠（りゆう）喨（りよう）として鏗（こう）鏘（そう）としてまた璆（きゆう）鏘（そう）たる咆（ほう）哮（こう）をあげながら巨大なる九（く）頭（ず）龍（りゆう）大明神が九個の頭（とう）顱（ろ）をあらわしたもうた。蓴（じゆん）羹（こう）鱸（ろ）膾（かい）の日本列島を鎮護なさり五（ご）穀（こく）豊（ほう）穣（じよう）の日本列島そのものであった九（く）頭（ず）龍（りゆう）大明神は五百万億塵（じん）点（てん）劫（ごう）の沈黙をやぶって磅（ほう）礴（はく）たるハビタブル・ゾーンに蘇（そ）生（せい）された快感からか狂喜乱舞するかたちで九個の御（お）首（くび）をくねらせたもうた。九個の御（お）首（くび）はそれぞれ翡（ひ）翠（すい）色・瑠璃色・伽（きや）羅（ら）色・紫菀色・瑪（め）瑙（のう）色・葡（ぶ）萄（どう）色（いろ）・鼈（べつ）甲（こう）色・鬱（う）金（こん）色（いろ）・黄金色に閃（せん）爍（しやく）しそれぞれの御（お）色（いろ）の顔（がん）貌（ぼう）は巨億本の口（くち）髭（ひげ）を靡（なび）かせ二本の鼻髭（ひげ）には雷（らい）霆（てい）がまとわりつき觳（こく）觫（そく）とすべき琥（こ）珀（はく）色（いろ）の双（そう）眸（ぼう）のうえには燄（えん）燄（えん）たる火炎とみまがう眉毛がゆらめいていらっしゃり頭頂部からは神都に櫛（しつ）比（ぴ）する摩天楼もこれほどかとおもわれる奇奇怪怪なる造形の二本の御角がはえなさっていて峭（しよう）峻（しゆん）にして高雅にあられ邃（すい）古（こ）に滅亡したるという蒙（む）古（くり）高（こ）句（く）麗（り）の恐竜なども忐（びく）忑（びく）とせざるをえない荘厳さであった。斯（か）様（よう）にして粒子化された大明神により茫（ぼう）邈（ばく）たる日本列島津津浦浦にて『魂（こん）魄（ぱく）接続』を遂行していた老若男女の肉体は滅（めつ）多（た）斬（ぎ）りにされ同時に老若男女の魂（こん）魄（ぱく）は万（ばん）斛（こく）の文字列に豹（ひよう）変（へん）して虚空を浮（ふ）游（ゆう）しそれぞれのふるさとの大地よりあらわれたもうた大明神の肉体にやどった。『魂（こん）魄（ぱく）接続』は成功した。全日本国民は日本列島そのものに『えらばれ』た。