　斯（か）様（よう）にして『人類は窮極集合とともに心中すべきか窮極集合のなかでくるしみつづけるべきか』という『投票』がおこなわれることとなりました。窮極集合内でおこなわれた投票の結果は以下のとおり。窮極集合との『心中』に『賛成』が無限票で『反対』が零票だったのです。ついに人類はわたしすなわち全宇宙を破滅させることを蹶（けつ）起（き）しました。わたしは咆（ほう）吼（こう）いたします。『人類よ。わたしの家族よ。わたしの友達よ。わたしの恋人よ。たとえわたしが斃（へい）仆（ふ）してもかまいません。があなたがた人類が永遠に滅亡するのはわたしにはたえられません』と。といえども『かんがえない宇宙』から『かんがえる葦（あし）』への沈黙の絶叫は響（と）動（よ）めきませんでした。ただひとり『全知の人間』であるがゆえにハルトマンだけが「宇宙よ。あなたはわるくない。わるいのは神のさだめたもうた物理法則だけだ」とわたしに物語り漆黒の穹（きゆう）窿（りゆう）をみあげてひとつぶの涙をながしただけです。同時にハルトマンの『涙』は人類最後の『涙』となりました。人類がエントロピー逓減機関を起動させたからです。