月と太陽

ピーコ

月と太陽

私は筒井絵梨花、25歳。無職で実家暮らしだ。以前いた職場の人間関係に疲れてしまい、3年近く仕事を探していない。


私は、半年前から、趣味を見つけた。SNS上で見つけた小説&朗読サークルに入ったのだ。自分の書いた小説を投稿して、お互いの作品の感想をコメントに書き込む。月1回のオフ会もある。オフ会では、自分の書いた作品を皆の前で朗読する。集まる人数は、だいたい6人ほど。性別も年齢もバラバラ。お互いをペンネームで呼び合う、素性をバラさないのがルールだ。


サークルの主催者は、男性だ。20代後半くらいの人。背がスラっと高くて、シャープな顔立ち。涼しげな目元が印象的。一見クールに見えるが、話すとユーモアのある楽しい人。話題の幅も広く、きっと頭のいい人なんだと思う。彼のペンネームは、透明人間。


彼の作品のジャンルは、バラバラ。恋愛もの、サスペンスもの、ファンタジーもの、コメディーもの、ホラーもの、官能ものまで。頭の中がどうなってるのか覗いてみたいくらいだ。


私の作品は、恋愛ものばかり。でも、私は、生まれてこのかた、恋愛というものをしたことがない。片思いぐらいは、あるけど、片思いをいつしたのかも思い出せないくらいだ。


私の作品は、妄想で書くからリアリティーが全くない。他の人は私の作品を褒めてくれるけど、自分では、いいとは思わない。私のペンネームは、雨。私の人生は、どんよりしてて、雨が降ってるようなイメージだからだ。私って、暗い(笑)。


ぼちぼち、月1回のオフ会の連絡が来る頃だ。

私は、透明人間さんに会えるのを楽しみにしていた。彼を初めて見た時、私の中に電流が走った。

こんな経験初めてだった。見た目も素敵なのだが、彼は、声が、めちゃくちゃいいのだ。低音で響く声。声に恋したと言っても過言ではない。

彼の朗読する声を聞くとゾクゾクする。

私は、彼の声が大好きだ。


透明人間さんからDMが届いていた。

内容は、こうだ。


雨さんへ


こんにちは。今回のオフ会は中止にします。人数が集まらなかったので。参加出来る人は、僕と貴女だけでした。2人だと気まづいだろうし、オフ会は、来月に延期です。雨さん、これからも執筆活動頑張ってください。貴女の作品は素敵です。初々しい恋の話、いつも楽しみに読ませてもらってますよ。

では、また👋         透明人間より


私は、これを読んでガッカリした。作品を褒めてもらったのは嬉しかったけど。オフ会がなくなるとか、ショック。めちゃくちゃ楽しみにしていたのに。透明人間さんに会いたい。


私は、すぐに返信した。


透明人間さんへ


こんにちは。ご連絡ありがとうございました。私の作品を褒めて下さってありがとうございます。褒めていただけたのは大変嬉しかったのですが……💦

オフ会中止の件、なんとかなりませんか?

私、2人でも、全然かまいません。

これからの作品作りの相談とかもしたかったし、透明人間さんに聞きたいことも、いろいろあるので。オフ会開いていただけませんかねー。


送信した。私は、送信した後、すぐに後悔した。

あー、やらかした。なんて、ガツガツした女なんだって思われたかもー。透明人間さん、ビビってるかも。あー、変な女だと思われた。サークル退会させられるかも。


私が落ち込んでいると、しばらくして、返信が来た。


雨さんへ


オフ会楽しみにしててくれて、嬉しいです。

わかりました。オフ会やりましょう。

私も雨さんに聞きたいことがあったんです。

では、いつもの場所で、いつもの時間に

お待ちしています。


私は、この文章を読んで、飛び跳ねたいくらい

テンションが上がった。今月も透明人間さんに会える。やったー、バンザーイ。


それから1週間経ち、オフ会当日になった。

私は、前の晩、何回も目が覚めた。

透明人間さんと2人っきりのオフ会。今回で会うのは6回目。今回、発表する作品は、ずっと思いを寄せていた相手に告白する話だ。透明人間さんのことを思い描いて書いた作品。この話を読んだ後、実際、告白したら、どうなるんだろう。考えるだけで、ドキドキが止まらない。


私は、メイクをバッチリし、髪も巻いて、お気に入りのワンピースを着て、いつものお店に向かった。


住宅街の中に、ひっそりたたずむ、つたの絡まる古めかしい喫茶店。中には、70代くらいのおじいさんのマスターがいる。オフ会は、奥の部屋で行う。今回は、透明人間さんと2人っきり。


喫茶店のドアを開けるとコーヒーのいい香りがした。「こんにちは」私がマスターに声をかけると、マスターは、ニコッと微笑み、「もう、先にいらしてますよ」と奥の部屋を指差した。


私は、奥の部屋へと向かい、ドアを開けた。

ドアの向こうには、透明人間さんがいた。


「こんにちは、お待ちしてました。」


透明人間さんは、白のシャツにデニムのパンツ姿という爽やかな格好をしている。今日もかっこいい。やっぱり、いい声。私は、ボーっとなりそうになったが、我に返って、挨拶をした。


「こんにちは。今回もお会い出来てうれしいです。」私は軽く会釈した。


部屋の中には、大きな丸いテーブルが真ん中にあって、いつもは、椅子に6人座っているのだが、今日は、2人。どこに座ろう。


私が困っていると「横に座りますか?」と彼が声をかけてくれた。(よ、よっ、横!!)私のドキドキは加速していった。


「あっ、はい」私は、めちゃくちゃ緊張した。

彼が近い、声が近い。いろいろ、やばい。


私が、ドキドキしていると、ドアが開き、マスターがコーヒーとケーキを運んできた。ここのコーヒーは、おいしい。今日のケーキは、モンブランだ。


私は、思わず声を上げた。「わー、モンブランだ。私の大好物です。やったー。」


マスターが言った。「今日は、お二人ですし、こちらは、サービスです。雨さん、頑張ってくださいね。」親指を立てるポーズをしてきた。えっ?何を頑張るの?もしかして、私が、透明人間さんを好きなのバレてる?まさかね、まさか。


そう言うとマスターが、そっとドアを閉めて

部屋から出て行った。その後、コーヒーを飲んでモンブランを食べた。うわー、このモンブラン最高。


「雨さんってホントにうれしそうな顔をして食べますよねー。めっちゃ、可愛いです。」透明人間さんが言ってきた。


可愛いって、今、言った?あたしのこと可愛いって、言った?めちゃくちゃ嬉しい。やばい、好き。


「そろそろ、お互いの作品を読んでいきましょうか?」彼が言ってきた。


「あっ、はい」私は、そう言うと、スマホを取り出し、作品を書いて残してる画面を開いた。


題名は、「観覧車」


内容は、大学の友達同士で、お互い好きなのに、お互いの気持ちをなかなか伝えられないまま、2人で初めてのデートに行く。夕方になり、観覧車に乗り、お互いに、好きだと言う気持ちを伝え合うという話だ。私は、女性の告白のシーンで緊張して声が震えた。「私、前から、貴方のことが好きでした。もしよかったら、私と付き合ってください。」


最後まで読み切った後、私は、泣いてしまった。

すると、彼が、「大丈夫?これ使って。」とハンカチを手渡してきた。「ごめんなさい。読み終わったら、ほっとしちゃって。」そう言うと彼は、

「雨さんは、ホントに心がキレイで素敵な人だよね。そういうところが前から好きなんだ。」と

言ってきた。


「え?」私は、思わず、声が出た。「透明人間さん、私のこと好きなんですか?」私は、聞いた。


「うん、君のことが好きだよ。」彼は、真っ直ぐに私の顔を見て言った。


私は、それを聞いて、また泣いてしまった。


「私なんて、どうしようもない人間なんです。人間関係を築くのが苦手で、仕事も3年近くしてなくて。怠け者で、家でダラダラしてて、でも、そんな時、透明人間さんのサークルを見つけて、これだと思いました。サークルの皆さんも優しくて。でも、サークルに入ってる1番の理由は、透明人間さんがいるからです。透明人間さんの作品は、全て素晴らしいんです。あと、朗読する時の声が好きです。大好きです。私、透明人間さんのことが心から好きです。あっ、1人でペラペラと、ごめんなさい。」


彼は、私を抱きしめて言った。「わかったよ。泣かなくていいから。君は、自分が思ってるほど、ダメな人間じゃない。君の作品は、とてもピュアで真っ直ぐだ。最初、君の作品は、月明かりのように控え目で目立たなかった。でも、最近の君の作品は、太陽みたいに明るくて元気で眩しい。

僕は、そんな君の作品が大好きだよ。そして、その作品を書く君のことも大好きだよ。」


彼の声が私の心の中に響いてくる。

私は、うれしくて涙が、しばらく止まらなかった。




















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