第25話 ―蒼緒― Blackout

 蒼緒は、椎衣那が注射器で刺されるところを見てもなお、まともに銃把グリップを握れずにいた。

 その流唯が今度は蒼緒の首を締める。首を掴まれた瞬間、ぎりぎりと細い指で締め付けられる。ふざけているのではない。本気だとわかった。

 でも、手にしていたサブマシンガンで撃てなかった。

 あの流唯さんが。

 流歌ちゃんを愛おしそうに見つめていた流唯さんが。

 良かった。流唯さんは〈狼餽〉なんかじゃ――〈女王餽〉なんかじゃなかった。私の見間違いだったんだ。そう思った。

 でもじゃあ、あの〈狼餽〉は一体――

 

 そう思った瞬間、銃声がした。


「ああああっ!」


 びくりと流唯の身体が跳ねる。

 流唯の顔が苦悶で歪む。

 口を開く。


「流歌、逃げて!」


 彼女が言ったのは助けを乞う言葉ではなく、妹を案ずる言葉だった。

 流唯の手から力が抜けて、倒れていく。

 

「流唯さん……!」

 

 思わず蒼緒は、彼女に手を差し伸べた。流唯の手を掴む。あたたかい。それは紛れもなく流唯の手だった。たくさん食べてくださいね、そう言ってお椀を渡してくれた手だ。優しく流歌を撫でていた手だ。


 その時だった。


 首に衝撃が走った。

 痛いと思う間もなかったし、何が起きたのかさえわからなかった。

 だが、音が響いた。自分の中から。


 ゴキ、という自分の首が折れる音だった。


 さっきの〈女王餽〉に食いつかれたと悟ったのは、意識を――

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