第12話  ―雪音― Just Then

 一方、その頃の雪音ゆきねたちは――。


「あらあら、衣蕗いぶきったら頑張っちゃって」

「……っ」


 路地の奥から聞こえた蒼緒あおの声に、紗凪さなが顔を赤くする。……そう言えば紗凪も最初の頃は吸血のたびに恥ずかしがっていたわね、と雪音は頬をほころばせた。

 ……可愛い。

 つい、吸いたくなってしまう。


「さーな」

「だめだよ、先輩」


 ぴしゃりと紗凪が止める。


「まだ何も言ってないじゃない!」

「先輩の考えてる事なんてお見通しだよ。……吸血はだめ。夜まで待ちなさい」

「夜ならいいの?」

「っ、そりゃ……」


 〈吸血餽〉の吸血は一日一回、夜零時までに最低一回はしなければならない。

 そうしなければ、〈花荊〉の方が禁断症状に苦しむ事になる。


 雪音はにこにこ――というかにやにやしながら、紗凪の長い黒髪に触れた。


「じゃあ、お楽しみは夜まで取っておくわね」


 そう言って艶やかな黒髪にくちづける。

 顔を赤くする〈花荊〉はかわいかった。

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