ep-6 ファーストキスの日

「ゲーマ様……好き……」

「エミリア……」


 知らず知らずのうちに、ふたりの唇が重なった。柔らかな唇。


 繋がった部分を通じ、なにかの力が流れ込んでくるのがわかった。おそらく……人生を切り拓く、「勇気」って奴だろう。


「……」

「……」

「……ぷっ」


 ルナの声だ。噴き出して、けらけら笑っている。


「ほら見て。やっぱり。ぜえったいふたり、こうなると思ってたんだ」


 ふわふわ浮かんで、自慢げに腰に手を当てている。ルナの両脇に、シャーロットとフローレンスが立っていた。抱き合う俺とエミリアを、見開いた瞳でガン見している。


「お前ら、いつから……」


 これは恥づい。エミリアとのファーストキスを覗かれてたんだからな。


「さあねー」


 くるくると、ルナが飛び回る。


「ねえねえゲーマ、いつから覗いてたと思う、ねえねえ。エミリアと抱き合って、いちゃつく悪役金貸しを。ねえねえ」

「知らんわ」

「ふう……」


 フローレンスは、溜息を漏らした。


「もう終わりかしら。……なんだかどきどきした。ロマンス物語を読んだときのように……」


 顔が赤くなっている。


「私が……ゲーマに抱かれてるような気分になったわ」

「そもそもゲーマ」


 冷たい瞳で俺を睨んで、シャーロットは腕を組んでいる。


「あなたわたくしたちを忘れているのではなくって? わたくしやルナ、それにシャーロットも仲間ですわよ。しかも……みんなかわいい女子じゃないの」

「わ、忘れちゃいないさ。お前らも大事な……仲間だ」

「なら仲間外れは許さない。エミリアにしたように、わたくしたちも大事にしてよね」

「わかってる」

「態度で見せて」

「態度……って……」


 何言ってんだこいつ……と、困惑した。


「鈍いなあ……ゲーマ。女神様に言われたけどさあ……この転生者は間抜けだって」


 ルナはもう、大喜びだ。いやほっとけ。間抜けで悪かったな。


「そこまで言うなよ」

「自分でも言ってたじゃん。二周目の目標はなんだったっけ」

「そりゃ……」


 思い出した。


「楽で儲かって……女付きの……人生」

「目的どおり、うまく行ったじゃん」


 胸を張っている。


「ほら早く。ふたりが列に並んでるでしょ。それに……ボクも」


 ルナに手を引っ張られた。エミリアは、黙って俺達を見つめている。


「ほらほら」


 シャーロットの前に立たされた。


「ゲーマ……」


 俺の胴に手を回してくる。背伸びして……瞳を閉じて。


 これは……。


 なにが求められているか、やっとわかった。てか俺、鈍すぎ。さすが前々世、前世とまったくモテ期のなかった底辺だわ。自分でも驚くが俺、こっち方面はどうしようもないな。


「シャーロット、これからもよろしくな……」

「ゲーマ……」


 唇が重なると、シャーロットは吐息を漏らした。熱い。


「……わたくしのこと、好き?」

「ああ」

「エミリアよりも?」

「それは……」

「ふふっ。冗談よ」


 俺に抱かれたまま、くすくす笑っている。揺れた胸が、優しく俺をくすぐった。


「絶句した罰として……」


 もう一度キスされてから解放された。


「その……ゲーマ……」


 フローレンスは、顔が真っ赤になっている。


「あなたのこと……私……誤解していた。あなた、村の危機を助けてくれて、私も救ってくれたものね、アンドリューの暴走から。それに……」


 俺の胸に頬を寄せてくる。


「それに……ここで暮らすようになって、私はわかった。あなたのストイックな人生、それに深い……愛情も。私を家族として……仲間として守ってくれるんでしょ」

「ああ」

「一生……よ」


 顔が近づいてくる。


「死が……ふたりを……分かつ……ま……で……」


 唇が重なる。嬉しいのか、唇は小刻みに震えていた。


「ねえねえゲーマ、次はボクだよ、ねえねえ」

「お前は妖精だろ」


 フローレンスを抱いたまま、俺は笑った。


「サイズが違いすぎるわ」

「それでもしてよう……。ボクだって、ゲーマの恋人だもん。ねえねえ、三人とおんなじようにして」

「仕方ないなあ……。知らんぞ、どうなっても」

「平気だもーん」


 飛んできたルナは、案の定、俺の唇に頭を吸い込まれた。


「もごもごもごーっ!」


 言わんこっちゃない。シロウオの踊り食いかよ。こんなん笑うわ。


「ぷはーっ。へへっ」


 だがルナは意気軒昂だ。


「ボクが一番ディープキスだったね。なにしろ頭までキスしてくれたし」

「ああもうそれでいいよ」

「へへーっ。じゃあゲーマ、みんなで出発だよ」

「そうだな。眠りドラゴンの待つ洞窟に行かないとな」

「ヘクタドラクマコイン探索ね。楽しみだわ」


 シャーロットが馬車を用意した。


「それからまた遠見の珠を使って、モブーの動向を探らないと」

「ゲーマの前世のモブーね。幼馴染だし、私も彼を助けたいわ」


 フローレンスを抱え上げ、馬車に乗せる。


「ゲーマ様……お守りします。……一生」

「ありがとう、エミリア」


 背伸びすると、エミリアが俺の耳に囁いた。


「今度……三人には内緒で……私の部屋で……」ごにょごにょ

「……いいのか」


 こんなかわいいエルフの娘と……。申し出ありがたいが、本当にいいのだろうか。


「もちろん。それに……」


 エミリアは微笑んだ。これまでの無表情な奴隷娘、無口でおどおどしているエルフ娘は、もうそこにはいない。


「それにシャーロットやフローレンスも、すぐ後を追いますよ。ゲーマ様は……素敵な御方だから……」

「そうかな」

「わかります。私……少しなら未来が読める……ので」


 それだけ言い残すと、ひらりと馬車に飛び乗る。今の言葉が本当か冗談か、俺にはわからない。


「さあ行こうよ、ゲーマ」


 俺の胸に、ルナが潜り込んできた。


「ゲーマと四人の嫁、眠りドラゴンの洞窟に出発だあっ」


 馬車はゆっくり進み始めた。抱き合う俺達を収め、春の陽光の中へと。


 冒険へと。


 人生へと。




(第一部完結/第二部に続く)


●コンテスト読者選考期間終了まで「あと24時間」です。

第一部完結とちょうどいい区切りなので、まだの方は、★みっつにて新評価・星増量をいただけると、読者選考に通る可能性が高まります。多分ボーダーライン上なので、星ひとつの追加でも、とてつもなくデカいです。。。よろしくお願いします。あと作品フォロー、外さないでね。。。


●第一部完読ありがとうございました。

なんとか初期プロットを全部収められてほっとしました。

次話は第二部予告、さらに次々話より第二部を公開開始します。

第二部では、ゲーマの冒険はモブー救出クエストをこなしながら、ヘクタドラクマコイン収集、さらにはゲーマと姫様の関係、エミリアの正体にまで物語が突き進みます。もちろん、エミリアを中心としたヒロインとのいちゃこらもさらに濃厚に。悪役貴族ゲーマの怪進撃が続きます。

お楽しみにー!


●あと、「面白かった」の一言だけでいいから、誰か文字入りレビューを書いてくれー(泣)。ひとりもおらんの、寂しすぎるんじゃ。。。(懇願する日)

ほれ、お前らも頼め

ゲーマ「頼むわみんな」

エミリア「お願い……しま……す。お礼に……」

ルナ「それから先は言っちゃダメっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る