二月と三月の会議

紫陽花の花びら

第1話

 お前に逢いたくて俺はこの時をどれほど待ちわびていたか。

冷たい風が俺を薄ら笑う。

馬鹿だろうか? 馬鹿でも良い!

俺の月なんざ、四季の中じゃ掠め行く一瞬の巡り会い、みたいなもんになってきているしな。


 今や日本の四季なんて言葉だけのものになっていて、情緒もくそもあったもんじゃねえ。暦の上では立春だとか言いやがって俺を急き立てやがる。

急く気持ちを落ち着かせ、深呼吸をして立ちあがると、俺は小さな春を抱えて歩き始める。逢いたい。あいつに逢いたい。

素直になりたい。


「2023年度四季の移り変わりを考える。第一回二月と三月の会議」

俺たちの話し合いでその年の季節の流れがおおよそ決まっていく。

月同士の繋ぎ方はそれぞれだ。

ただ、俺たちの会議無しには季節は上手く移り変わらない。

俺たちが冬から春へと、如何に美しく繋げていけるのかを、周りはハラハラドキドキしながら見ている。

 だいたい、どの月もうまい具合に引き継がれて行くのに、悲しいかな、あいつの月と俺の月はいつも揉めてしまうのだ。

 俺が息を弾ませて、お前の前に立とうものなら、早い! と文句を言い、 少しばかり、いたずら心を起こして雪なんか降らせれば、すべてをおじゃんにする気かと怒られる。

 俺だって二月の楽しんで貰いたい。地味だが一番風情があると自負しているんだぞ。

来たか。突然優しい風が俺の周りをクルクル回る。

「今年は、上手く咲かせられたの?

蝋梅」

「まあな。今が見頃だぞ」

「良かったじゃない。最近は、順番がぐちゃぐちゃしてしまう事が多いから

しっかり協力しないと。これからが本番よ。三寒四温」

「うっせなぁ。何が三寒四温だよ」

「なによ何怒ってるの? 嫌なの?」

「何がだよ。嫌なわけないだろ」

逢いたかったって言葉を聞きたくて、お前からそれだけを聞きたくて。

「ほらよ」

無愛想に小さな春を渡す。

「もう~ちゃんと渡してよ。落とすところだった。そうなったら、折角逢えたのにまた離れてしまうでしょ!」

俺たちがこの小さな春を、大切に大切に育むとこで、日毎自然に彩りが増えていく。

「逢いたかった。待ち遠しかった」

そう言いながらお前が恥ずかしそうに微笑めば硬い蕾も少しずつほころぶ。


 さあふたりで早春を歌い上げようじゃないか。

そして……じきに俺たちは別れの時を迎えるけれど。

……出逢いの季節四月が美しく花々を咲そうとお前を待っているよ。


好きだ。ほんとに好きだ。

こうやって四季折々の時を楽しめるこの星が。


月も火星もいいのかもしれない。

でも……出来れば神秘は神秘のままに。

そんな風に俺は思ってしまう。


この小さな青い星がいつまでも美しくあって欲しいと願うのは我が儘なのだろうか。


終わり






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