篠原優子



~篠原優子~



「あら、ゆいちゃん。いらっしゃい。お店は? どうしたの?」


 水曜日、まだ政府からの予約が入っていないのをいいことに、神野ゆいは篠原の自宅に優子に会いに来たのだった。


「今日はもうおしまいにしました」


「そうなの。さぁ、あがってあがって」


「お邪魔します」


 篠原の自宅はいかにも和風な造りの一軒家で、二人で住むには広すぎる程の大きさだった。


 神野ゆいはここに来ると、まるで実家に帰ってきたような感覚になっていた。


 安心できて落ち着くのだ。


「嬉しいわ。ゆいちゃんが来てくれるの」


 優子はお茶を出しながら嬉しそうにしていた。


「篠原さんから聞いているとは思いますが……」


「ああ。晴輝くんと一緒に住むこと? それでわざわざ報告に来てくれたの?」


「はい」


「ありがとうね。よかったじゃない。私、ゆいちゃんが人と一緒に暮らすなんて日がくるとは思ってなかったから。人に心を開かなかったゆいちゃんがねぇ。だから主人とも喜んでいたのよ。それほど晴輝くんを信じて愛しているのね、って」


「……はい」


「あは、うらやましいわ、楽しそうで」


「優子さんは、結婚前に篠原さんと一緒に暮らしたりしたのですか?」


「いいえ。私たちはお見合いだったから、わりとすぐに結婚しちゃったのよ。それからずっとここよ」


「お見合いだったのですか? そうは見えなかったです」


 二人はとても仲が良かったので、神野ゆいはまさかお見合い結婚だとは思っていなかった。


「そうね。出会いはお見合いだけど、お互いに一目惚れというか、何かこうピンときたのよ。この人と結婚するなって」


「へえ、素敵ですね」


 その時、庭の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ただいま」


「ただいま、ユウタロウ」


 庭に行ってみると健太郎と佑斗がユウタロウと遊んでいた。


「お帰りなさい」


 優子が二人に声をかけた。


「あっ、ボスだ」


「うわぁ、ボス」


 神野ゆいに気付いた二人は驚いていた。


「お帰りなさい。二人とも」


「ただいまです」


「こんにちは」


 挨拶もそこそこに二人はユウタロウとおいかけっこを始めていた。


「賑やかでいいでしょ?」


 優子が嬉しそうに言った。


「はい。とっても」


 神野ゆいも子どもたちを見て笑顔になっていた。


「そうだ、ゆいちゃん。夕食一緒に食べていかない? 晴輝くんも呼んで。どう?」


「ぜひ、ありがとうございます」


「ねえ! あなたたちも晩ご飯食べて行く?」


 優子が健太郎と佑斗に聞いた。


「食べます」


「やった~」


「じゃあ、おうちの人に電話してちょうだい」


 健太郎と佑斗は「はぁい」と言って、それぞれ持っていた電話で親に連絡していた。


「たまにこうやって二人とご飯を食べるのよ。今日は大人数になるわね。ゆいちゃん晴輝くんに連絡しといて。お買い物に行きましょう」


「はい」


 神野ゆいは晴輝に連絡して、篠原の自宅に来るように言った。


『了解。何か親父も行くって横で言ってる。いいかな?』


 その旨を伝えると優子は笑顔で親指をたてていた。





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