第27話 アリアの決意
ダルクがスペクターと交戦を始めるより少し前、アリアは未だ医務室にいた。
彼には身を隠せと言われていたが……それでいいのかと、自問自答する。
(私……ダルクに助けられて、守って貰って……そればっかりだ)
ダルクは、アリアに研究を手伝って欲しいと言っていた。アリアのような子が魔法を使えるようになってこそ、魔道具の存在意義が生まれるのだと。その言葉に、嘘はないだろう。
だが……端から見れば、アリアは彼に助けられっぱなしにしか見えない。少なくとも、アリア自身そう思っている。
そして今回も、ダルクに助けられた。
助けが来るまでじっとしていた方が良いと言ったのはダルクなのに、アリアを助けるために彼自身がそれを破って、たった一人戦いを挑んだ。
それを、アリアは見ていることしか出来なかった。
(悔しい)
アリアの魔道具は、ダルクのように周囲の魔力を利用する形ではなく、自身の魔力を事前に込めて魔法を発動するのだが……この《
(私も……ダルクの力になりたいのに)
このままではダメだと、強く思う。しかし同時に、自分に何が出来るのかと、悲観的な考えばかりが頭を過る。
座り込んだまま悶々と悩み続けていると、ベッドの方から呻き声が聞こえた。
「スフィア……! 気が付いたんだ、よかった」
「アリア……? 僕は……一体……」
「えっと……」
目を覚ましたばかりのスフィアに、アリアは現状を説明する。
それを一通り聞いて、スフィアは目を細めた。
「そうか、そんなことに。コーネリア先生……どうして……」
スフィアとしては、彼が目指す医師としてこの学園に勤務していたコーネリアは、憧れの人物だったのだろう。
そんなコーネリアが起こしたであろう大事件に心を痛め、涙する。
だが、泣いてばかりもいられないと思ったのか、スフィアは涙を拭って真剣な眼差しをアリアに向けた。
「アリアは……これからどうするの?」
「私、は……」
ダルクの力になりたいと、そう言いたかった。
だが、どうしてもそれを口にすることが出来ない。
そんなアリアに、スフィアは優しく語りかける。
「……ダルクがね、いつも言ってたよ。アリアはすごい子だ、って」
「えっ……」
「ほぼ無尽蔵の魔力もすごいけど……何より、どんな実験も怖がらずに取り組む勇気が何よりすごいって、そう言ってた」
「それは……ダルクが、いたから……」
ダルクのことを信頼していたからこそ、そのダルクがやろうと口にした実験なら間違いはないと、そう信じていただけだ。
そう説明すると、スフィアは思わずといった様子で苦笑を浮かべる。
「女の子にこんな風に想って貰えるなんて、ダルクが羨ましいなぁ」
「……?」
「ごめん、今は関係なかったね」
微笑ましげに緩んでいた表情を引き締め直したスフィアが、今一度アリアへ問い掛けた。
「アリアは、どうしたいの?」
「それは……」
「こんな状況だからね、何が正しいかなんて誰も分からない。だから、アリアのやりたいようにやっていいと思う」
ベッドの中から、スフィアが手を伸ばす。
その指が指し示す先には、アリアの魔道具があった。
「そのための力は、ダルクから貰ったんでしょ?」
ぐっと、アリアは唇を噛み締めた。
スフィアの目を見て、自身の魔道具に手を触れ──ついに、決意を固める。
「ありがと、スフィア……私、ダルクを助けに行く」
「うん、頑張って、アリア。あ、そうだ、ついでに、ダルクにこれを届けて貰える?」
「これは……?」
「ルシフェールと、もう一つ。コーネリア先生が隠し持っていた魔法触媒の水晶だよ。僕にはよく分からないけど……ダルクが見れば、何か分かるかも」
「ん……分かった」
水晶を受け取ったアリアは、踵を返して扉へと向かう。
そんなアリアに、スフィアは手を振った。
「頑張って、アリア。応援してるよ」
「ありがと、スフィア。行ってくる」
医務室から飛び出していく、まだ小さな少女の背中。
そこに、スフィアは小さく呟いた。
「ダルクとのことも含めて……色々とね」
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