第2章:生まれた時から決まっていた運命なんてない(2)

「なんでお前が変身したことをもう知ってるか、だろ? 父ちゃんをなめるなよ!」

 父は、千春の足元でつぶらな瞳を向けているポメラニアン、タマをびっと指さした。

「俺様はなァ、タマと魔法で念力通信テレパシーができるんだよ! お前の晴れ舞台、しっかり俺様のソウルに刻まれたぜ!」

「はあ」

 タマが喋り、自分が変身した時点で、色々と感覚が麻痺まひしているのだろうか。千春は最早、気の抜けた返事しかできない。

 息子が大して感激していないことを不満に思ったのだろうか。洋輔はくちびるをとがらせ、「なんだよー」といじけ気味の声を出した。

「『やったよパパ!』って、父の胸に飛び込んでくるぐらいはしろよー! 一人ではしゃいじゃって、父ちゃん恥ずかしいじゃねえか!」

「ちっとも恥ずかしいと思ってないよね? むしろこの状況を楽しんでるよね?」

「てへ、バレたか」

「てへ、じゃない!」

 ツッコミを入れても、恥じらいなどどこ吹く風。洋輔は悪びれずに舌を出し、ぽりぽりと頭をかいた。

「とにかく、説明してよ」

 千春は大きくため息をつき、父とポメラニアンを交互に見る。

「どうしてタマが喋るの? タマと父さんはどういう関係なの? どうして僕が変身できたの? ソル・スプリングってなんなの? 襲ってきた鳥人間は何者なの?」

「ふぅむ、我が息子ながら、冷静にしかし矢継ぎ早に質問攻めにしてきやがるな!」

 父はあごに手を当ててうんうんとうなずき、「おいタマ」と犬を見下ろす。そして、途端に真剣な表情になった。

「いい加減、話してもいいだろ。千春はもう、なにも理解できないガキじゃねえんだ」

「……そうじゃな」

 洋輔にこたえるタマの声も、いくぶん固くなる。

「今こそ語るべきじゃろう、『自在なるものフリーマン』と我々の因縁を」

 しかし一瞬後には、タマはポメラニアンの無邪気さを取り戻し、

「とりあえず、我はおなかすいたなー! 低脂肪の肉と魚を使った、健康にいいドッグフードを所望するぞ!」

 と、つぶらな瞳をきらきら輝かせた。

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