第2章:生まれた時から決まっていた運命なんてない(1)
聞いてロザリー!
あなたに教わった通りに、焼菓子を作ったの!
ちょっと失敗して、指先に
渡しに行くから、あなたも付き合ってくれない?
その、一人では、まだ勇気が出ないのよ。わかってくれるでしょう、ずっとわたくしを見てきたあなたなら!
澤森家は、佐名和町の住宅街にある。そこそこ広い庭付きの土地と、白い壁の建物は、佐名和の中では比較的新しい。
元々は、庭で
『あの古くさいじいさんに付き合う義理はもうない! こんな家は不要じゃあ!』
そう言って大枚をはたき、三階建ての今の家が完成した。
その祖母も数年前に九十歳で大往生し、母も千春が幼い頃に亡くなっているので、今は千春と、父と、タマの、二人と一匹暮らしである。
「た、ただいま……」
ソル・スプリングから男子中学生の姿に戻った千春は、玄関の扉をおそるおそる開ける。すると。
「おー! 千春ゥ! 遂にやったな!」
パーン! と、クラッカーが鳴り、玄関先で立ち尽くす千春の頭に、肩に、紙紐がぽたっとはりついた。
クラッカーの紐を引いたまま、満面の笑みで出迎えたのは、チタンフレームの眼鏡をかけた、中肉中背の壮年の男性。外見にこれといった特徴があるわけではないのだが、晴れ晴れとした笑顔と、それに似合わぬ口調の荒っぽさやテンションの高さで、やけに人の記憶に残る。
「ソル・スプリングに変身したってんじゃねえか! やっぱり俺様とカレンの子だなァ!」
この人こそ、千春の父、澤森洋輔だ。
昔は佐名和の内外でバイクを駆り、仲間を引き連れ爆走していたとか。県内の怖いお兄さんがたは全員父に頭が上がらないらしいとか。妙な噂だけが飛び交っているのは、千春も知っている。
しかし、今気にすべきは、そこではない。
「父さん、なんで」
髪についた紙紐をつまみとりながら、千春は眉根をよせて父に問いかけようとしたが。
「おっ、みなまで言うな! 父ちゃんはわかってるぜ!」
洋輔は手のひらを見せて息子の言葉をさえぎり、ふふん、と鼻を鳴らした。
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