魔法少女ソル・スプリング

たつみ暁

プロローグ

『春が好き』

 太陽の光が降り注ぐ中。舞い散る桜の花びらに向けて手を伸ばしながら、『彼女』は言った。

『この大地に新しい命が芽吹く季節だなって、感じる。この星が生きているって、感じる』

 くるくるはねた赤毛が、春の光に照らされて、きらきらと輝く。

『いつか子供が生まれたら、「春」を使った名前をつけたいな』

 お前はまだ若いのに気が早い。

 そう告げたら、『彼女』は、『おや』と少し明るめの茶色い瞳を細めた。

『わたしはもう大人の仲間入りの歳。そういう話をしたって、いいじゃない』

 そういうことじゃあない。

 自分から見たら、『彼女』はいつまでも子供で、危なっかしい、守らねばならない存在だ。なのに、『彼女』はひらりはらりと自分の思惑の手をすり抜けて、先へ先へと進んでいってしまう。

 先の話なんてしないでくれ。

 離れていってほしくなくて、思わず差し出した手は、くうをつかんで。


『彼女』は、自分の手の届かない遠くへ、行ってしまったのだ。


 やはり陽光ばかりがまぶしい、春の日に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る