06 迎

 彼ら一行を出迎えたのは二人のアメリカ人科学者――でっぷりと太ったトニー・ニューマン博士と、それとは対照的にガリガリに瘠せ細ったダグ・フィリップス博士両名――だった。二人ともカリフォルニア工科大学の理論および実験物理学教授で、リチア地区を訪れた時間風調査隊全員の世話人ということになっていた。その野営屋舎には、すでに数十名の各国の時間風学者たちが寄宿していた。

「やあ、いらっしゃい」

「ようこそ、こんな遠くまで」

 二人が同時に歓迎の言葉を述べた。そして、その場で自己紹介が行われた。

「ああ、あなたが沢村博士ですか。なにぶん、お顔を見るのは初めてですから……」

 沢村の自己紹介が終わるとニューマンがいった。それまでの様子からすると、どうやら彼は、社交好きな典型的アメリカ人らしい。

「博士の提出論文の独創的発想には、ダグともども、いつも感服させられています」

 ニューマンが沢村に握手を求めた。沢村がそれに応じる。その体格から想像されるように、かなり力強い握手だった。

「で、あなたが噂のミスター・ブラック・ハム、いや、失礼、ブラック・ハム博士ですな」

 そういうと、ニューマンは混在する立方体形状のブラック・ハムを、しげしげと見つめた。

「それにしても、妙な格好をされていますね」

「お褒めをいただきまして、ありがとうございます、ニューマン博士」

 と、ブラック・ハムが正統的なクィーンズ・イングリッシュで答えた。ニューマンがしばし戸惑う。それを察して、ブラック・ハムが話題を振った。

「ところで博士、博士はアルジャントウイユ生まれのフランスの抽象画家、ジョルジョ・ブラックをご存じですね? ピカソと並んでキュビズムを創始した人物ですが……」

 もちろんニューマンはそのことを知っていた。だからこそ、ブラック・ハムはその話題を取り上げたのだ。

「おお、とすると、あなたのお名前のブラックとは……」

「画家ブラックの高名を拝借したものです。JSC‐MC‐四九八九号では、なんとも味気ないですからね」

 ブラック・ハムは続けた。

「また、ラストネームのハムとは、ハムノイズの意味です。私はある種の思考体ではありますが、人間ではない。ブラックのハムノイズ(ザ・ハム・ノイズ・オブ・ブラック)とは、つまるところ、あなた方人間存在を通して得た、私自身の思考形態の意匠なのです」


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