第22話 ルナとデート②

「高原さん。お久しぶりです」


 勇司が司書の高原慎太郎たかはらしんたろうに声をかけた。


「……」


 しかし慎太郎は勇司のことに気が付いていない様子だった。


「覚えてないですか? 滝浪です。滝浪勇司です」

「あ~! 滝浪君か~! 久しぶりだね! ずいぶん大きくなったね。誰だか分からなかったよ」

「お久しぶりです。そんなに変わりましたか?」

「変わったよ~。会うのは何年ぶりだい? 二年、三年?」

「三年ぶりですね」

「そっか、そっか~」


 慎太郎が勇司の肩をポンポンと叩く。


(そうそう。こんな人だった)


 昔と変わらない慎太郎のフランクさに懐かしさを覚えた勇司。


「高原さんは変わってないですね。ずっと図書館にいたんですか?」

「いましたよ」

「そうなんですね」

「それにしても本当に久しぶりだね~。元気にしてたかい?」

「元気でしたよ」

「そっか。顔を見なかったから心配してたんだよ」

「実は三年前に引っ越しまして、今年戻って来たんです」

「そうだったのかい」

「はい。なので、これからはまた図書館に通わせてもらいますね」

「ぜひぜひ。毎日でも来てね」

「はい。それじゃあ、人を待たせてるので、また」

「うん。またね~」


 慎太郎に頭を下げると勇司はルナの待っている海外文学コーナーに向かった。

 海外文学コーナーに到着するとルナが本を手に持っていた。

 勇司が言っていたシャーロックホームズの第一巻目だ。


「お待たせ。よく一巻目が分かったな」

「おかえり。調べたからね~。これが一巻目なんだよね?」

「そうそう。それが一巻目」

「じゃあ、これ借りる~」

「後は何か借りたい本あるか?」

「恋愛小説を何冊か借りて帰りたいかな〜。日本のね」

「了解。じゃあ、日本文学コーナーに戻るか」

「そうだね〜」


 勇司たちは日本文学コーナーに戻ると一緒に数冊の恋愛小説を選んだ。

 そして、選んだ本たちを持って貸し出しカウンターで貸し出して続きをしてもらうと、勇司たちは図書館を後にした。


「スーパーに寄って帰ってもいい? 晩御飯の食材買って帰りたいんだけど」

「もちろんいいぞ」

「ありがと!」

「ちなみに今日の夕飯は?」

「ビーフシチュー!」

「それ聞いただけでお腹減ってきた」

「楽しみにしてて〜。それにしてもすっかり春だね〜」

「春だな」

「こんな天気の良い日は外で読書したいな〜」

「そんな考えが出てくるなんてすっかりと読書家だな」

「まぁね! 今度さ、芝生に寝転がって読書しようよ! 芝生じゃなくてもベンチに座ってとかでもいいから!」

「そうだな」

「どこかいい場所知ってる?」

「十色公園くらいしか思いつかないな〜。あそこは芝生広場あるし、なんなら子供の頃、あそこでよく寝転がって読書してた」

「あー! あるね! 芝生広場! じゃあ、そこでやろ!」


 十色公園はかなり広い公園で、雫と一緒に歩いた散歩コースは全体の三分の一程度でしかない。

 芝生広場があったり、遊具広場があったり、噴水広場があったりと、かなり広い。

 かくれんぼをする時はいつも区画を決めてやっていたくらいだ。


「そうだな。まさかルナとそんなことをする日が来るんなんてな」

「ね〜。楽しみだなぁ〜!」


 未来を想像するだけでワクワクする。

 明日を想像するだけでワクワクする。

 こんな気持ちにさせてくれるのは三人が一緒にいてくれるから。

 三人と一緒だから人生が楽しいし、明日が来るのが待ち遠しいし、今日が幸せだ。

 勇司は何も言わずにルナの手を握った。


「勇司から手を繋いでくれるなんて珍しいね!」

「なんか繋ぎたくなった」

「そっか。遠慮しなくてもいつでも繋いできていいからね? 勇司なら大歓迎なんだから!」

「そういうことなら、好きな時に繋がせてもらうかな」

「もちろん! いいよ!」

 

 満面の笑みを浮かべたルナは勇司の手を握り返した。

 その手の温もりは春風のように心地よかった。

 


☆☆☆


 第4章 了


 明日から更新が毎日1話になります🙇‍♂️

 

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