第19話 雫とデート①

 夢子と映画館デートに行った翌日。

 今日は雫とデートをすることになっていた。


「昨日は楽しかった?」

「夢子のデートのことか?」

「うん」

「楽しかったぞ」

「そっか。それならよかった」

「それで、今日はどこに行くんだ?」

「着いてからのお楽しみ。きっと勇君も楽しめる」

「そんなこと言われると気になるな」


 道案内は雫に任せている。

 勇司は未だにどこに行くのか知らされていなかった。


「そういえば雫と二人っきりで歩くの久しぶりか」

「そう。だから嬉しい」

「だから、ずっと俺の腕に抱き着いてるのか?」

「うん」


 家を出てからここまで雫はずっと勇司の腕に抱き着いていた。


「ダメだった?」

「いや、全然ダメじゃないよ」

「よかった」


 安心したように雫は勇司の腕に顔を擦りつけた。


「そうだ。勇君」

「どうした?」

「また勇君の絵を描きたい」

「俺の絵か」

「うん。今だったらもっと上手に描ける」

「あの頃もかなり上手だったけどな。雫が描いてくれた自画像はちゃんと額縁に入れて残してあるぞ」

「本当に? 下手だから捨ててほしい」

「捨てるわけないだろ。俺にとって大事な宝物なんだから」


 三人から貰った物はすべて残してある。

 三人から貰った物を捨てるなんて絶対にしない。


「そっか。ありがとう」


 雫は少し頬を赤くして嬉しそうに笑った。


「勇君のカッコよく描くから」

「そしたら昔の絵と並べて部屋に飾ろうかなら」

「昔の絵はやめてほしい」

「そこまで言うなら一緒に並べるのはやめとく」

「うん。ありがと」


 一緒に並べるのはやめるけど、大事にしまっておこうと勇司は思った。


「今日行くところも絵に関係したところ」

「そうなのか。絵に関係したところというと美術館とか?」

「違う」

「美術館じゃなかったら、他に絵に関係したところか……」

「当ててみて」


 どこがあるだろうかと勇司は考える。


(美術館以外で絵に関係する場所か……)


 そういうことにあまり通じていない勇司は美術館以外に思いつかなかった。


「悪い。美術館以外に思いつかない」

「そっか。仕方ない。それでも楽しめるところだと思うから」

「ますます気になるんだが?」

「もう少しで到着する」

「お、マジか。楽しみだな」


 それから数分後、目的地に到着した。


「ここは……」

「絵画展。勇君も好きな漫画の」


 雫に連れてこられたのはギャラリーだった。

 そこで勇司が好きな漫画の絵画展が開かれていた。


「へぇ~。こんなことやってるんだな」

「初めて来る?」

「初めて来るな」

「やった。勇君の初めてもらった」


 雫のその言い方に勇司はドキッとした。


「と、とりあえず行くか」

「うん」


 入口でチケットを買って中に入った。

 中に入ってすぐ、勇司と雫のテンションは爆上がりした。


「ヤバ!」

「ヤバい!」


 普段大人しい雫も珍しくテンションが上がっている。

 それもそのはず、入口で漫画に登場するキャラたちに出迎えられたのだから。


「ちなみに雫はどのキャラが好きなんだ?」

「やっぱり主人公!」

「だよな! 主人公しか勝たんよな!」

「うん! 主人公しか勝たん!」


 絵画展は写真撮影がOKらしいので、勇司たちはそこで何枚も写真を撮った。

 いろんなキャラと写真が撮れて満足した勇司たちは一つずつ堪能するように見て回わった。


「うわ! このシーンヤバいとこだ!」

「私もこのシーン好き!」

「何度読み返してもここのシーンで泣くんだよなぁ~」

「分かる。私も泣く」


 そのシーンは主人公が強敵を倒してヒロインを救うシーンだ。

 胸アツなシーンできっといろんな人がこのシーンで涙を流しているだろう。


「全人類が泣くよな」

「泣くと思う。泣かないのはおかしい」

「だよな。それにしても、こんなに素晴らしいことをこれまで知らなかったなんて、俺は損してたんだな。連れて来てくれてありがとな」


 勇司は雫の頭を撫でた。


「連れてきてよかった。グッズとかも売ってるから後で見よ」

「マジか。それは見ないとだな」


 それから勇司たちは漫画の名シーンについて熱く語りながら数時間をかけて絵画展を堪能した。

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