第11話
「雫。いつの間に」
「勇君が帰ってきたから休憩」
「ルナから聞いたけど、絵を描いてたのか?」
「うん。私の得意なこと」
「子供の頃、ルナはよく絵を描いてたよな」
「描いてた」
「よく見せてくれてたもんな」
「見せた」
ルナはあの頃から絵を描くのが上手だった。
いろんな絵を描いていて、風景画から人物画まで描いていた。
勇司も一度だけ肖像画を描いてもらったことがあって、その肖像画は額縁に入れて大事に保管してある。
「二人は得意なことを仕事にしたんだな」
「ルナちゃんもだよ」
「そういえばルナのやつも小説書いてたっけ」
あの頃は小説というにはほど遠いほど単純な物語だったけど。
単純な物語だったけど、ついつい読みたくなってしまう中毒性があった。
それが今では読書家である勇司に涙を流させるほどの物語を書けるようになったのかと思うと、感慨深いものがあった。
「読書家の勇司君はルナちゃんの物語はどう?」
「めっちゃ面白いし、涙流すくらい感動できるし、書籍にしても売れそうなレベルじゃないか」
「だって、ルナちゃん。聞こえた? たくさん読書してよかったね」
「聞こえた~! 勇司泣いたの?」
「泣いたよ」
「へぇ~。泣いたんだ」
ルナがニヤニヤしていることが声だけで分かる。
「私の物語そんなに良かった?」
「よかったよ」
「そっか。勇司に褒められるのが一番嬉しい! たくさん本を読んで勉強した甲斐があるなぁ~」
「ルナって読書苦手じゃなかったか?」
「子供の頃はね。今は結構好だよ~」
「あのルナがな。まさか読書好きになるとは」
「最初の方は結構苦労したよ。物語を想像するのは好きだったけど、読むのは苦手だったからね」
子供の頃のルナは落ち着きのない子で授業中でも席を立って先生に怒られていた。
その頃のルナを知っているからこそ、読書に慣れるまで本当に大変だったんだろうなということが分かる。
「よく頑張ったな」
「ありがと。もうそろそろハンバーグ出来上がるからお皿とか準備……そうだ。まだ、ないんだった!」
「あ、完全に忘れてたな」
「私たちの家から持って来ますよ。雫ちゃん行きましょ」
「分かった」
「ごめん。ありがとう」
夢子と雫はお皿を取りに行った。
「他に何かできることあるか?」
「ないかな~。あ、じゃあ、ちょっとだけ味見する?」
「いいのか?」
「もちろん!」
手招きをしているルナの元に向かった。
「それじゃあ、開けるよ」
ルナがフライパンの蓋を開けた瞬間、リビングにデミグラスハンバーグのいい匂いが充満した。
その匂いはハンバーグ好きの勇司の食欲を刺激した。
「美味しそうだな。危うくお腹が鳴るところだった」
「鳴らしてもよかったのに~」
ケラケラと笑ったルナは菜箸でデミグラスソースハンバーグを一口サイズに切ってふぅふぅとした。
「はい。あ~ん」
そして、ルナは勇司の口にハンバーグを運んだ。
口の中に運ばれたハンバーグは噛めば噛むほど肉汁が広がり、もっと食べたいとさらに勇司の食欲を刺激した。
デミグラスソースも絶品で、しっかりとハンバーグと絡み合っていて最高に美味しかった。
「どう? 私の作ったハンバーグは?」
「凄く美味しい。好きな味だ」
「そっか~。よかった~」
ルナは安心したのかホッと息を吐いた。
「勇司の口に合うか心配だったからよかった」
「めっちゃ美味しいぞ。もっと食べたいくらいだ」
「ありがと。それならよかった」
ハンバーグの味見を終えたところで、夢子と雫がお皿を持って戻ってきた。
それから勇司たちは夕飯の準備をしてご飯を食べ始めた。
久しぶりに四人で食べるご飯はいつもの何倍も美味しい味がした。
☆☆☆
第二章 了
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