第6話
お風呂のお湯が溜まった。
夢子に先に入っていてほしいと言われた勇司は一足先に湯船に浸かっていた。
扉一枚向こうに夢子がいる。
そう思うだけで自然と鼓動が早くなった。
「さすがに緊張するな」
余裕ぶってはいたが勇司は緊張していた。
今にも口から心臓が出そうなくらいに。
コンコンと扉がノックされ「入ってもいいですか?」と夢子が聞いてきた。
「ど、どうぞ」
「失礼します」
扉が開いてバスタオル姿の夢子が入ってきた。
その瞬間、まるで時が止まったかのように勇司と夢子は見つめ合った。
時間にして数秒だったが、とてつもなく長い時間のように感じた。
先に目を逸らしたのは夢子だった。
「子供の頃は平気でしたけど、今は恥ずかしいですね。私の体は勇司君から見てどうですか?」
そう言って夢子は体に巻いていたバスタオルを取ろうとした。
さすがにマズいと、勇司はとっさに夢子から視線を外した。
「ふふ、安心してください。ちゃんと水着を着てますから。見ても大丈夫ですよ。というか、むしろ見てください。今の私が勇司君の好みかどうか知っておきたいのです」
「会わないうちにずいぶんと大胆になったな」
昔と変わっていないと思ったがどうやらそうではないらしい。
「もちろんこんなことをするのは勇司君だけですし、私が裸を見せるのは生涯で勇司君ただ一人です。相手が勇司君じゃなかったらこんなことしませんし、一緒にお風呂に入るなんて絶対にしません」
「本当に見てもいいんだな?」
「はい」
勇司はゆっくりと夢子の方を向いた。
「……」
「な、何か言ってもらえませんか?」
夢子はもじもじと体を動かして勇司の感想を待っている。
しかし、勇司は何も言わなかった。
いや、言えなかった。
言葉が出ないほどに夢子の水着姿は美しかったからだ。
真っ白な肌に水色の水着(肩紐なし)。
水着からこぼれ落ちそうなほど大きなおっぱいに綺麗なくびれ。
ちょうどいい肉付きの長い脚。
夢子の完璧なスタイルに勇司は見惚れていた。
「私の体……変でしょうか?」
「ごめん。あまりにも綺麗すぎるから思わず見惚れてた。全然変じゃないよ」
「では、勇司君の好みですか?」
「そ、そうだな。正直に言えば凄く……」
勇司が頬を掻きながら恥ずかしそうにそう言うと夢子は胸を撫で下ろした。
「よかったです。体づくりを頑張った甲斐がありました」
「そうなのか。ありがとな。俺のために頑張ってくれて」
ルナの時のことがあったから、勇司は夢子のことをスッと褒めることができた。
ルナといい、夢子こといい、この三年間、勇司のために何かを頑張ってくれている。
それはつまり、この三年間、二人は勇司のことをちゃんと覚えてくれていたということだ。
そのことが勇司は何よりも嬉しかった。
「勇司君と再会した時に恥ずかしい体は見せれませんからね。まさかこんなに早くお見せすることになるとは思ってもいませんでしたけど」
夢子は苦笑いを浮かべた。
「俺も驚いてるよ。こんなに早く三人に再会できる日が来るんて思ってもなかったからな」
「こんな奇跡みたいなことがあるのですね」
「日頃の行いが良いからじゃないか?」
「そうかもしれませんね」
勇司と夢子は笑い合った。
「あの、私も湯船に浸かってもいいですか?」
「もちろん」
「それでは失礼しますね」
プラスチック製の桶を使って体にお湯をかけた夢子は勇司と向き合うような形で湯船の中に入った。
こうして改めて向かい合うと、夢子の美しさをより一層実感する。
「やっぱりまだ少し恥ずかしいですね」
「そうだな」
お互いにまだ緊張しているせいか会話はあまりなかった。
それでもこの時間は幸せだった。
幸せ以外の何物でもなかった。
好きな人と同じ時間、同じ空間で共に過ごす。
そんなの無条件で幸せに決まっている。
「これから少しずつ慣れていきますね」
「これからも一緒に入ってくれるのか?」
「勇司君さえよければ」
「じゃあ、これからも一緒に入るか」
「はい。入りましょう」
「他の二人とも一緒に入ることになりそうだけどな」
「その時はまた考えましょう」
「そうだな」
十分というのはあっという間で「夢子。十分経った」と雫が外で待機しているようだった。
「もう十分経ってしまいましたか。もう少し一緒に入っていたかったですけど、仕方ありませんね。それでは私は上がりますね」
夢子は湯船から上がった。
夢子が扉を開けると、白色の水着を着た雫が入ってきた。
「次は私の番」
「雫ちゃん。楽しんでね」
「うん」
雫とバトンタッチをした夢子はお風呂を後にした。
夢子とバトンタッチをした雫はシャワーを軽く浴びている。
シャワーを浴びている姿がまた絵になること。
全体的にほっそりとした華奢な体。
雫は三人の中で一番背が低い。
シャワーを浴び終わった雫は何も言わずに湯船の中に入った。
てっきり、夢子と同じように対面に入ると思っていた勇司は不意をつかれた。
湯船に入ってきた雫は勇司の足の間に収まり、勇司と向き合うような形でその華奢な体を密着させた。
「し、雫?」
勇司の心音を聞くように右耳を胸に当てた雫がボソッと言う。
「もう会えないかと思ってた。また勇君に会えて嬉しい」
その雫の言葉で勇司の中に湧き上がっていた雫への煩悩はどこかへ消え去った。
気が付けば勇司は雫の頭を撫でていた。
「勇君に頭撫でられるのも久しぶり」
「そうだな。相変わらず雫の髪の毛はサラサラだな」
「そう?」
「ずっと触っていたいくらいサラサラ」
「ずっと触っててもいいよ。私の髪の毛に触っていいのは勇君だけ」
「そっか。じゃあ、遠慮なく触らせてもらおうかな」
「うん。触って」
雫の白銀の髪の毛は手を通すとスーッと抜けるほどサラサラだった。
どれだけ触っていても飽きることがないほどに触り心地が良い。
雫はあまり口数が多い方ではない。
数分間、二人は一言も話さなかった。
雫は勇司に抱き着いていて、勇司は雫の頭を撫で続けていた。
言葉を交わさなくても、そこに雫がいてくれるだけで幸せだった。
「雫。そろそろ交代~」
ルナがやってきた。
「もう十分。早い」
雫は物足りなそうな顔をしつつも湯船から上がった。
「また一緒に入ってもいい?」
「もちろん。また一緒に入ろうな」
「うん」
嬉しそうに笑った雫はお風呂を後にした。
雫と入れ替わりでルナがお風呂に入ってきた。
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