もじもじ
「ていうか、響聞いてよ。滝沢ったらさ、未だに『僕は異世界に行く!』とかいっるのよ」
「うわぁ、超痛い子じゃん。うーん、素材は良いんだからまともになればいいのにね」
「え……? ひ、響って滝沢の事……」
「ぷっ、可憐ったらわかりやすいんだから。私はただの友達じゃん」
「べ、別にアイツのことなんて気にしてないんだからね!」
「うわぁ、ツンデレ乙」
昼休みの教室。俺はいつも通り異世界ノートを開いておにぎりを食べている。
響の周りには人だかりができると思ったが、どうやら可憐がうまく調整して一定のルールを取り決めたらしい。さすがリア充だ。
教室の外から響を見に来ている人はいるが、中には入ってこない。
何故かこいつらは俺の前の席で飯を食っている。話している内容が丸聞こえだ。……まあ遠くても聞こえるんだがな。
「ねえねえ文哉ってさ、友達いないの? ご飯も一人で食べてるし」
「うるせえよ。友達なんていねえよ」
響は俺にとって元友達だ。嘘告白には動揺したがもう大丈夫だ。俺が緊張せずに話せる『元友達』だ。
クラスメイト、特に男子からの視線が痛い。なんでお前が話しかけられているんだ、っていう敵意と嫉妬の視線。
「ふーん、なら私と友達になる?」
「いや、お前は小学校の頃、俺と縁切っただろ」
「ぷっ、ガキの頃の話じゃん。うちらは文哉と違って成長してるから〜」
響の視線は異世界ノートを見ていた。俺は思わず腕で隠す。
「いいじゃん、見せてくれたってさ」
「駄目だ、これは大事なノートなんだから」
「ていうかさ、高校にもなって異世界行くってマジでなんなの? ちょっとやばくない? 痛くない?」
「べ、別にいいだろ……」
響は言葉を止めない。妙に突っかかってくる。
可憐は俺のまともに見ていない。昨日の件があったからだ。
「あれでしょ? 異世界に行きたい人って現実でうまくいってないから行きたくなるんでしょ? 文哉って見た目陰キャだしいじめられてそうだし、童貞ぽいし、モサいし、あっ、ごめん言い過ぎちゃった」
確かに響の言う通りだ。俺は立派な童貞だ。それの何がわるい。高校二年ならそれが普通だ。
「見た目陰キャだから友達できないのよ。あたしがメイクしてあげよっか? ぷぷっ」
見た目が陰キャだから友達ができないのか……? しかし、俺っぽい見た目の奴でもつるんでいる奴らはいるぞ。
「別に現実が嫌なわけじゃねえよ。異世界に行くために色んな経験をして楽しんでいるぞ」
異世界に行った時の予行練習は大事だ。実践経験はもちろん、貨幣経済を理解するために色んな事したぞ。
響はそれを鼻で笑い飛ばした。
「ぷっ、文哉、現役アイドルの前でそれ言う? どんだけアイドルが辛いが知ってる? 異世界に行きたい〜、ってグダグダ言ってる奴の言う事なんて信じられないよ」
「いや、お前の事は何も言ってないだろ」
「どうでもいいよ。文哉は今日から学校でのあたしのマネージャー(パシリ)ね! あっ、可憐には優しくしてよね。だってうちらマブダチでしょ!」
なぜ俺が響のパシリに? 友達がいなくても平穏だった生活が変わってしまう。それに、俺の目標は女子生徒と仲良くすることだ。
それは可憐や響の事ではない。
だから友達はいらないと思っていた。でも人とのコミュニケーションが重要だと気がついた高2の春。
成長しなければ行けないと思った。今のままでは異世界で苦しむことになると思った。
だから俺は冷静に対処しなければならない。子供みたいな喧嘩はしては駄目だ。
「少し黙れ、だから性格がブサイクなんだよ」
……ん? 俺、今なんか言ったか?
眼の前にいる響がわなわなと震えている。心の声が漏れてしまったようだ。
「ふ、文哉、それ本気で言ってるの? わ、わたしね、可憐と文哉がいるクラスに入るの結構楽しみにしてたんだよ?」
「いや、俺は全然楽しくないから」
響は俺の机をガンッと蹴って立ち上がった。
「可憐、行こ。こいつマジでさいてー」
「う、うん、お、落ち着いてね。中庭で日向ぼっこしよ」
響たちが立ち去った。俺に平穏が訪れた……わけではない。
「うわ、陰キャさいてー」
隣の席の委員長が白い目で俺を見ていた。
「女の子にブスって……、信じられないわ」
クラスで二番目に可愛いと言われているモテ子が侮蔑の眼差しで俺を見ている。
「ありえないわよ……」
「ちょっと引くわー」
「え? 響ちゃん、友達になってあげようとした優しい子でしょ?」
クラスの女子全員が俺に軽蔑の眼差しを送っている。
流石に心が折れそうであった。
なんだ? 俺が何か悪いことを言ったのか? 自分の気持ちを正直に話したのが悪かったののか? パシリにするは良くて、性格ブサイクは駄目なのか?
自分の間違えがわからない。
こんなんじゃ、異世界転移したらクラスメイトから殺されてしまう。
これも修行だ……。
俺は悪意ある視線の中、おにぎりを頬張るのであった……。
****
クラスメイトと話さないだけの生活はこの一日で一変した。
直接的な被害はないが、悪意ある眼差しと陰口が止まらない。
これが空気というものか。なるほど勉強になる。
響はアイドルというだけあって高いカリスマ性を備えていた。
響が嫌いなものは私達も嫌い――
すごいな、日本人。
容姿だけでこれほど主体性がなくなるとは……。
***
俺は今までオシャレとは無頓着であった。服なんてなんでも良い。髪も伸ばしていた。なぜなら異世界に言った時、髪をかきあげながら魔法を唱えたらかっこいいだろ?
……もうちょっとだけ身なりを整えてみよう。もうクラスの女子と仲良くなるのは絶望的だ。
それでも、女子生徒に話しかけるためには最低限のオシャレが必要だと思った。
もしも葛之葉と友達になれて、俺のせいで葛之葉がキモいなんて言われたら嫌だ。
委員長にもキモいと言われたし……。
俺は美容室なるものへと向かうことにした。
「あ、あれ? 滝沢、君? こ、こんちわ」
「く、葛之葉さん……、お、おはよう」
オシャレ雑誌に載っていた美容室へと向かったら、店の前には葛之葉さんがウロウロモジモジとしていた。
同じ雑誌を手に持っている葛之葉さんも俺に気がついて顔を赤らめる。大丈夫だ、俺も赤いと思う。
お互い、よくわからない挨拶をしたまま硬直する。そういえば、葛之葉さんは教室の中で唯一俺の事を笑っていなかった。
俺は深呼吸をする。大丈夫だ。俺は同年代や年下の女の子と話すのが苦手なだけだ。年上の女性とはちゃんと会話していたじゃないか。魔女疑惑があったアリス、裏教会のクリス、連盟所属のミーシャや怪盗クリスティーヌ……。
葛之葉さんを年上の女の子と思えばいい。
「あ、あのさ、誕生日、いつなの?」
「え……? あ、はい、4月10日……」
よし年上だ、頭を切り替えられる。この子は大人な女性だ。そう思うんだ!!
「葛之葉、俺はクラスメイトの滝沢だ。すまないが君の事を年上の美魔女だと思っていいか?」
「……え、ええ? あ、はい。そ、それで話しやすいなら……」
「おっけ、これなら話せる。葛之葉、君が話しやすい男はどんな人だ?」
「え、えっと……、『ときめきクロニクル』の主人公の隣にいる老執事?」
ときクロの老執事か……。中々良いチョイスじゃないか。あの執事は目が鋭くて髪がスタイリッシュで、背筋がシャンとしている。
俺は目を閉じて老執事をイメージする、そして固まったイメージを構築する。
「あっ……、セバスだ。……セバスがいるよ! ちょっとすごいじゃない! なんで雰囲気がわかるの⁉ あたしの名前は葛之葉。滝澤、よろしくね!」
「お、おう」
俺は葛之葉の変わりように若干引いてしまった。
でも、明るい笑顔がとても素敵で印象的だった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます