第37話 生きる長さ
青みがある薄い月が黒い空に浮かんでいる。人影が途絶えた深夜、不安な風が走り空洞の街を暗い夜空が覆う。
日中はこどもたちで賑わう街角の小さな公園に濃い闇が吹きだまっている。狭い公園の空間ではあるが公園に漂う闇は無限に深くそして無限に広い。
深い漆黒の闇の中で囁きが流れた。
『揃ったようだな』
何も存在しない闇の中で闇が囁く。闇に融けた無数の無言が頷く。闇ありて影を抱き影が集いて闇をなす。
無限の闇の中に無数の影が有する。影は無数ではあるが多数ではない。多数ではないが少数でもない。多数でなく少数でもなく無数有する。
無数の影にはそれぞれ異なる番号が付されるのみであり影に名は無い。
影同士では相互関連はなくただ支配者たる闇との間にのみ連携が存する。影は闇に望むことは叶うがその望みに闇が応えるかは定かではない。
『影1019、前に・・・・・』
闇が囁く。蠢く影の中で頷く影一つ前に進む。
『主の命、6ヶ月とのこと。しかしそれほどは持つまい。生の寿命4ヶ月である』
それほど短い命なのか?少しでも生かしてやりたい、たとえ1日でも長く。
『生の一生を延ずることは不可能でしょうか?まだ現世に現れ30年。あまりにも短すぎる命と考えます』
『30年も数百年もまた1日も単なる瞬きの連続である。その長さにおいて特に差異はない』
『通常は80年、いやせめて60年それが肉である生の一般。その半分しか生きておりませぬ』
『生の一生は瞬きの連続でありその長さに意味はない。数百年も生きる人生も1日を生きる人生も人生の長さに意味などない。ただ与えられた瞬きを生きるのみである』
闇の中で支配者である闇の命は絶大であり、抗することなど皆無である。いくつかの影は闇の命を受け、あるものは罪の重き扉を開き、あるものは廻の扉をくぐる。
静寂の中、闇の裁きは進み今宵の闇合は終焉を迎える。いつものあの囁きで。
『闇合はこれまでである、次にまた』
爽やかな目覚めだった。あと半年、6ヶ月で死ぬことなど嘘のような。
昨夜夢を見た。小さな頃の思い出や楽しかったことや大変だったこと、両親との温かなやり取り、学校の遠足、親しかった友との思い出を。そして愛する夢子との出会いやそのひと時を。
まるで何十時間もの長き夢を。覚えているが覚えていない。思い出せないが忘れはしない夢を。
頭の中に鮮明に残る一言。
『瞬きを生きよ』
『瞬き』とは何だろう?一瞬のことだろうか?
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