第36話 夢まぽろし
責を果たした後の未来は保障されるものでなく現世における記憶を禊消された後にまた新たな影となりて肉に同体すると確信している。高みに昇華されるまでは・・・・・
しかし生である肉は日々老化を進め寿命を終えれば業火に焼かれて消えるのみである。生の責などは特に無い。ただ魂である影の責を果たすための容器としての役割を担うのみである。
その単なる容器に付帯する感情の振動に影1019はいま感動している。かって経験したことなどない、いや経験したことなどないと感じられる生の清廉さに感動させられている。
1日でも長く隆一郎というこの高潔な生と共に生きたい。そう願った。
夢に見ていた。結婚式の夢であった。隣には純白のウェディングドレスをまとったとびきりの笑顔の夢子がいた。
目線の先には白いハンカチで目頭を押さえ涙ぐんでいる優しい母がいた。そして隣にはこどものころからずっと尊敬している父が微笑んでいる。
何歳になったのか覚えていない。
今日がいつなのか記憶にない。
しかし幸せな二人を取り巻く全ての人たちが微笑みあたたかな祝福してくれているのがわかる。
既に残り半年の命の筈だった。
まだ生きているのだろうか?
みんなの微笑みに囲まれてふとそのことを考えた時、周りの景色が大きく揺れて崩れた。
夢なのか?やはり夢だったんだな。思いがけない展開に苦笑いをしている時に夢から目覚めた。
残りの人生半年をいかに生きるか?
半年、6ヶ月をどう生きていくのか?
哀しくはなかった恐怖もなかった。しかし残念であった。
夢子との結婚。自分と夢子との間に生まれるこどもとの出会い。楽しく明るい家庭生活。両親の喜ぶ笑顔。
今は全てが夢でしかないのだ。人はこの世に生まれそして年老いて必ずや死ぬ。しかし6ヶ月後とは・・・・・
両親の哀しむ顔、夢子の絶望。日1日と近づいてくる死を目前にして、いま自分は何をなすべきなのか。何をしておかねばならぬのか。
多過ぎるのだ。あまりにも多過ぎる。もちろん自分がこの世に生を受けて死ぬまでの間せめて悔いが残らぬように、思いつく全てを成すことなど不可能である。
そうだ迷っている時間などない。生きている間にやるべきことを全てノートに書き出して優先順位をつけてやれるだけ片付けていこう。自分がこの世に生を受け人間として生きてきた証拠を残したいから・・・・・
「もうあと6ヶ月しかないのか、どこまでやれるかな」
あまりにも短すぎる残された時間に苦笑いするしかなかった。
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