第28話 トラブル担当
家計を任された夫としての女社長からの信頼、信用をぶち壊した責任をとれとの無理難題である。各種の税について今まで1度として期限を過ぎたことがなかった納税の事実や内容を精査せずに画一的に督促状を送付した役所仕事についての苦情であった。
「個々の家庭の事情まで役所では関知しておりませんから」
確かにそのとおりではあるがあまりにも事務的な新人職員の対応が来所者の逆鱗に触れたようだ。窓口カウンターのイスから立ち上がりカウンターを叩きながら大声で怒鳴る姿に職員全体が目を伏せるそんな状況であった。
体格も立派でありいかつい顔である来所者のフロア全体に響き渡る罵声は到底素人とは思えないほどの迫力であり、窓口対応した新人の男子職員は恐怖のためか真っ青な顔して硬直してしまっている。
税金を扱うこの事務所では窓口対応で雷を落とされるのは当然の洗礼であり怒鳴り散らされたことがない職員など誰一人いない。ごく当たり前の事件なのである。
しかしいくら何度も怒鳴られた経験があるとはいえ直接怒りを受ける職員にとってはけっして慣れることがない恐怖でしかない。
通常は来客が感情的になり大声を上げるような窓口トラブルについては係長が対応する。それでも困難な場合は課長が対応することが一般的な対応となっている。
隆一郎が所属する係は10人構成であり上司である係長の富田は地方税のキャリア20年を超えるベテランである。
富田は人柄も良く職員にも優しいがトラブル対応はどうも苦手のようである。窓口でトラブルが起こるとさり気無く席を外すのが通例である。いやトラブルが起こりそうな気配を察知すると見事に必ず席を外す。まるで超能力者のように。
さらに富田の上司である課長の中沢についてはトラブルが起こると逃げ出しはしないが、必ずといっていいほど耳が遠くなるようだ。しかも自席にお尻が貼り付き絶対に剥がれなくなる。
顔は課長机にくっつく程の距離に固定され机の上の書類に釘付けになり、まったく仕事から手が離せなくなる。机に伏せたような体制のまま硬直し時が止まる。
そんな職場だから窓口でトラブルが発生すると間違いなく上司のヘルプはまったく期待できないのが当たり前の状態であった。
この事務所てはトラブル対応はなぜか隆一郎が対応するシステムが構築されていた。ほんのわずかな主任手当がそのための報酬とは思えはしないが・・・・・
トラブルが起きると担当者は必ず隆一郎にヘルプの目線を送る。まるで助けてくださいと必死にすがる目付きで。なかにはもろに声に出して助けを求める者さえいる。
「加原主任、ちょっとよろしいですか」
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