第22話 一生に差異なし
影1910は考える。迷っていた。今同体している杉と分離すべきなのか共に生きるべきか。闇の決定は確定であり闇の命令は絶対である。闇合において囁かれた。掟に基づき寿命まで影の責を全うすべきと。その掟守り得ぬもの重罰に処すると。
闇の掟を司るものは闇そのものであり、すべての影は闇に従属する。闇の掟に背くものが受ける闇罰は闇自らが与えるのか?全てを知り全てを理解する闇がこの世界の支配者であるのか?
否である。影1910の棲む世界は暗の世界であり明の世界には存在しない。暗の世界と明の世界を行き来できるのは生そのものであり、影は生と同体していることにより明の世界を生を通して観るそして感じることができる。
影そのものが存在しない明の世界は光輝き、闇は存在しない。闇が支配するのは暗の世界のみであり明の世界は別の世界である。
明の世界を支配するのは何か?疑問はあるが全ての影はその疑問を口にはしない。影自身が棲み得ない世界であるからである。
影たちは光輝く明の世界に憧れる。いつかは明の世界を生と同体することなく影自身のみで棲むことを夢見ている。
生と共に明の世界に存在するときの明るさ温かさ心地よさを実感している。本来影が棲む暗の世界と真逆の環境を有する世界である。
明の世界についてはまた後日談に委ねる。
廃寺に美しく咲く桜も昨夜の強い風でほとんど散ってしまった。影1910はこの桜を観るのを最後に杉の木との同体から別離するつもりでいた。
まだ決めかねていた。闇の囁きが意識の中をぐるぐると回る。自分の考えが間違っているのだろうか?400年を超えた長きにわたる杉との同体がまだ短いというのだろうか?
『個体である生の一生に差異はない。例え1日であっても、それが1000年であっても。他の生との比較に意味はなく1000年を待てぬものは1日もやはり然り。長いと想う想念をどう内部処理するかのみであり耐えること生きることが影の務めである。刻は瞬きの連続であり連続に意味はなく瞬きを大事に生きることが全てである』
400年を超えて物言わぬ動かぬ杉と同体していた自分が、まだ責を全うできていないというのか。1週間を生きる蝉に同体できたらさぞかし楽であったと考えたが、400年も1週間も一生の長さに差異はないという。
影1910は杉と同体して5年経過した後からずっとずっと刻の長さのみを意識していた。しかし闇は囁いた。刻は瞬きの連続であり連続性には意味がないと。
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