第19話 突然死の甘受

 影2491は既に確信していた。光の心は離れていると。生としての彩もそれを認識している。しかし肉としての感情が未練があえて否定する。


 諦めない。諦めきれない。諦めてあげない。今さらの裏切りなんて許さない。自分を捨てて他の女への乗り換えなんて認めない。そんなことなら一緒に死んで・・・・・


 影2491は本来の方向へ彩を誘導しなかった。


 まさかまさか本気で死のうなんて考えているとは思わなかった。お腹には新しい命が育ちつつある。母性は新しい命を全力を上げて守るものだ。それが肉としての本能なのだ。


 影1942は光の優柔不断に辟易していた。それを優しさだと勘違いしている世の中にも呆れていた。彩という生の母性限界も確信していた。


 もう今はこの状況では光に何を働きかけてもコントロールできない。肉欲に支配されているわけではない。決断できない感情が光という生の特徴なのかもしれない。今は諦めよう。後でよく話して聞かそう。このままでは天下人にはなれないと。


 誰もいない深夜の港に真っ暗な海が広がっている。想い出の海が。2人を飲み込む海が。


 影1942は結果として、光という生とともに過ごした人生に終止符を打った。けっして望んだわけではない。光の死を意識的に看過した訳でもない。


 はたして光の死は自殺であったのか。自らの意思で明日という扉を閉ざしたのであろうか。突然動き出したクルマ。深夜の港から迷わず一直線に暗い海に向かって跳んだ。


 影1942は呆然としていた。沈んでいく暗く冷たい海の中で、まさかまさか今ここで彩が命を絶つ事態を考えてはいなかった。新しい命を宿した母体という肉の感情からは予想外の行動パターンであった。溺れ遠退く意識の中で、光の死を受け入れられなかった。


 闇合にて闇に囁かれた責罰。影1942は納得していなかった。あれは彩という生が起こした自殺に巻き込まれたのであって光自身の自殺ではない。故に寿命が当然ではないのか?


 『光の自発的な死ではなく他の生の自殺に巻き込まれたのであって光の死は寿命であり、終止符ではあり得ない』


 『知得し判別できた突然死を甘受することは寿命とは言えず自発的な死を選択したことと差異はない。生が行うそのような死を看過した行為は即ち終止符であり、責罰の対象である』


 『他の生の死を知得し判別できた事実はあっても甘受したわけでなく、けっして看過した訳ではありませぬ』


 『影を裁くのは唯一闇のみであり闇の裁定は責罰である』


 闇の決定は絶対であり重き罪の扉をくぐり囁きに導かれ闇を進む。闇に聳える巨大な壁、その前に流れる大きな黒き河。なぜ壁を目指すのか、なぜ黒き河に入るのかは不明である。ただ囁きに導かれて進むのみである。

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