第18話 新たな同体

 凍える水に禊がれる。生である光と過ごした日々も、天下取りの夢も、彩との日々も、香の寝顔も揺れて薄れる記憶の中で黒き水に溶けて消える。


 明るい照明の中、同体した新たな生の息吹きを認識した。寄り添う母親の温かさを感じる。今、前町長の大地主の次男、明という新しい生の魂としての人生が始まる。


 闇の存在は不確定であり且つ絶対的存在である。闇の質量形状は不明であるが、全ての夜にまた日中の広大な大自然の中にも小さな犬小屋の中にも確実に闇は存在する。


 闇は影の集合である。影は個体としての生と同体する魂といわれるものであるが各個体間の意思伝達はない。


 影は闇の一部であり闇の全てでもある。影は闇に服し闇は影を支配する。

闇は無限の空間に存在し始まりもなく終わりもない時の間を漂い日常的に存在するがその実体は誰も知らない。


 闇は唯一無二の単体的存在であるが全ての時全ての空間に同時に存在する無限単体ともいえる。


 闇合は闇が主催する。いつどこで開かれるか誰も知るものはない。影は闇合に集い影が集合して形成されるのが闇である。


 影が集合しない闇が存在するのか?存在する。闇は闇であらゆる時空間に出現した時点で無限単体である闇である。影は闇の一部であり闇を形成しているが 闇そのものではない。


 影は闇の一部であるが闇ではなく闇は影の集合により形成されるが影の集合体ではない。したがって影は闇ではないが闇に成り得る。また闇は影ではないが影に成りうる。


 影は生に個別同体し生に働きかけ直接誘導するが闇は直接生を誘導することはない。ただし間接的に個別の生に感覚的に影響することは可能ではある。


 生が闇の中に身を置くとき不安や恐怖等の感覚を抱いたり胎中感等の安心感を抱く。また既視感や異次元感等の通常外感覚に囚われるのは闇による間接的影響といえる。


 闇は客体として全ての時と全ての空間に漂うとともに、主体としては全ての時と全ての空間を内包し闇に抱かれた生は闇の内包する記憶・感覚・映像により泡沫の幻を見る。


 その幻は闇の主体的活動として生に投げかけるものでもあり、また闇の主体的活動に関わりなく生自体が感じてしまうものでもある。


 闇と光とは空間においては境界はなく一体融合し各々の時と空間は当然同一のものであるとともに、まったく異質のものでもあり別の時が流れ別の空間を有する。


 影1910は前世で『別離』を行い闇合において重罰を与えられ黒き河で禊がれ再び新たな生との同体が行われた。黒き河で禊がれ前世の認識・記憶等は禊消されている。現世における生との同体時以降の認識・記憶等しかない。

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