闇と影
希藤俊
第1話 影が合して
光が当たらぬ不安な空間が少しずつ色の濃度を増している。透明であった空気が灰色に変容し灰色からやがて墨色が産まれ滲み広がり濃い闇色へと変確する。
闇色に澱む空間は闇と呼ばれ闇の中は気配があるが実在はない。実在はないが蠢く無数の存在がある。
『揃ったようだな』
何も存在しない闇の中で闇そのものが囁く。囁きに促され闇に融けた無数の無言が頷く。
『町の長老の次男が危ないようだ。影4219、何故だ?次男はまだ40になったばかりである。寿命はまだまだ長い。影としての責務に影響となる障害が生じたのか?』
『責務遂行上の障害はございませぬ。ございませぬが・・・・・』
『なぜだ?そなたが宿りそなたが護るべき生であろう。まだまだ生の命は長い。何故に恣意的な死を急ぐ?』
『自らの生であるがゆえ育み護り共に生きてまいりました。しかし限界でございます』
『何が限界かは知る必要など無い。しかしまだ生と別れる時ではない。先の闇合においてもまだ別れを許しておらぬ。影4219、闇の掟を忘れてはいまいな?許しなき別れは認め得ぬことを。生との別れは闇の許しを要することを』
闇の中を流れる囁きが闇に溶けたものに闇の掟を諭す。
『もちろんわかっております。掟を破りしものの受けるべき罰も』
『それでもなお別れを行うのか?』
『許認の御心を賜りお許しを願いたい』
『死の許しは闇が行うもの。それがいつであるかは闇のみが知り闇のみが定めるもの。次男の寿命はまだ続く』
『近々の別れをお許し願いたい』
『責務放捨を許認する理などない。影4219よそれでも背く想い変わらぬのか?』
『お許しを・・・・・』
『もう言うまい。この闇合これまでとする』
闇の囁きが重く流れ闇が蠢く。闇がざわめき無数の気配が一斉に動いた。暫く後にはすべての存在が消えた。
闇に潜みしものの存在は何であったのか?
それは本来の闇そのものと無数の影であった。闇が在りて闇の中に無数の影が集い闇を濃いものに変えていた。
影を支配するものが闇であり、闇を形成するものが影である。それらが集い合するのが闇合である。闇には闇以外の名など無い、むろん影にも同様に名など無い。しかし影の個は闇により数値で印され別を生きる。
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