追放公子の傍観〜転移の力で、どの勢力とも敵対せず〜

渋谷ふな

プロローグ:追放。そして傍観者の誕生

第1話 追放。そして傍観者は誕生する

 サンジャ国のレイン峡谷地帯をナワバリにしているモンスターのぬしを討伐して、数日掛かりの仕事を達成した。

 野営しながら、何とか街に到着した晩のことだった。

 やっと天井のあるまともな宿で休めるかと思ったら――突然、呼び出される。


「ユバ――パーティを抜けろ」


 第一声がそれだった。


「お前はこれからの先のイングラード帝国領地では厄介者だ。お前をこの先へ連れて行くわけにはいかない」

 

 リーダーを務める聖騎士メデルから直球に言われ、最初だけは理解が追いつかなかった。


「ずっと悩んでいたが、私が率いるパーティにお前は不要との結論に至った」

 ……なんだそれ。

 色々と突っ込みたいことが多すぎたが、とりあえず聖騎士メデルはまだ言い足りなそうな顔をしているので立ち尽くしてみる。


「そ、そんな言い方するなんて聞いてないよ、メデルちゃん! ユバさんがどれだけ私たちの旅に貢献してくれたと思ってるの!」

 数人の仲間たちが冷めた視線を送る中で、俺のもとへ寄り添う女子一人アンナ。

 しかし聖騎士メデルは首を振る。


「だが、事実だ。こいつはこれから私たちが向かう帝国で恨まれすぎている! 戦争や薬物を生業とするノーフェルン家出身のユバを連れていけば、たとえユバが分家の出身とはいえ我々の命だって危ないのだぞ!」

「でも……私たち。ユバさんに何度も助けられたし……」

「――くどいぞ、アンナ! これはパーティの総意だ! ユバ、お前を除いた総意だがな!」


 常人が俺の立場に置かれたら逆ギレしたり、激怒してメデルに掴みかかるのだろう。


 でも俺は疲れ切っていたし、ああ、またか……と妙に納得してしまった。


 冷めてしまった。

 結局、こいつらも他の奴らと何も変わらないってことだ。

 数年の旅仲間だけど、クソ野郎と知るのは出来るだけ早い方がいい。

 

「アンナちゃんさー、良い子ぶるの止めたら? いい加減、うざいって」

 口に出したのは、呪われた盾を背中に背負う盾者シールダー、ミキだ。


「そ……そんな。別に、私。良い子ぶってるわけじゃ――」

「はーあ? 良い子ぶってんじゃん! ユバがパーティにいたら、帝国の一般市民にまで嫌われるかもって一番心配してたのは司教のお前じゃーん! そういう二枚舌、うざいんですけどー! 死んだ方がいいと思いまーす!」

「あれは……私が司教だから……市民に嫌われたら……仕事が……出来ないから……」

 はっきりしない態度のアンナ。

 でも二枚舌のアンナとはっきり断罪したミキの言葉に一理ある。アンナにはそういうところがあったから。


「ねえリーダーッ! 早くしようよ! 私、眠いし、疲れてるんだけどッ! ノーフェルン本家が私たちに投資してくれるって言うんだからさ! ノーフェルン分家のユバに頼る必要、ない! それだけのことでしょ! 帝国に行っても、私たちがどこからお金を得てるなんてバレようがないんだしさッ! 私、疲れてるのッ!」

 今度はとんがり帽子を被る魔法使い、いつも気だるげなレレが俺を見ながらそう嘲った。


 ああ、なるほど。そう言うことか。

 俺が思ったより、動揺していないのはそう言うことか。


 この世界に復活した魔王討伐を目指す無数のパーティは数あれど、俺が彼女達のパーティを選んだ理由はノーフェルンの呪われた公子と呼ばれた俺を必要としてくれたからだ。


 俺は彼女たちに望まれるがままパーティに属し、貢献した。私財を投げ打って、彼女たちの武具を買い与え、唯一の男手として雑用をこなし、彼女らの目論見通りパーティは名を高めた。

 だが、結果がこのざまか。もう疲れた。


「うふうふふ。これからの旅では、ノーフェルンの公子がいるとやりづらい……ユバ様がいるとイングラード帝国人に恨まれることは必須。あのノーフェルンの公子なのですから。だけど魔王討伐の旅において、イングラード帝国を避けることが出来るパーティは一つもいない」


 パーティの中では最も年上だった行き遅れのルン姉――あ。行き遅れっていったら怒るんだけど、もう仲間じゃないからいいや。

 行き遅れのルン姉が、聖騎士メデルの言葉に賛同した。


「でも……それってパーティに入る前の話で……。ユバさんは、わざわざ、ノーフェルン家を出て、私たちのパーティに入ってくれたんだよ!? 今更、見捨てるなんて……ユバさんはどこに帰るの……? ユバさんに故郷なんて……」


 アンナはやりづらそうに、顔を伏せている。

 どれだけアンナが頑張ろうが、もう未来は決まっている。

 このパーティでは、聖騎士メデルの意見は絶対なのだ。


 俺は冷めた感情で、そいつらの語りを無視した。


 もはや奴らは俺にとって仲間じゃなく、この場で俺はただの傍観者だった。


 だれも気づいてくれない。

 俺も手の震えに。この時、たった一人でも、俺が普通の人間で傷つくことだってあるとわかってくれれば、俺は彼女たちに願ったかもしれない。

 

 俺を捨てないでくれって。

 でも、だれも気づくことはなかった。それが全てだ。


「ユバ。お前には感謝している。だが、もうお前の支援はいらない。新しい支援者がついたからな。ノーフェルン本家が、正式に私たちを支援してくれるらしい」


 ノーフェルン本家の連中がやりそうなことだとも思った。

 いつだって俺の手柄を横取りすることが好きな奴らなのだ。


 俺は辺境の大貴族ノーフェルン家に生まれ、魔法の才能に恵まれた。

 いや、言い直そうか。才能に恵まれ過ぎていた。


 大抵の人間が記憶ストック出来る魔法の数は2つから4つぐらいのもの。

 だけど俺の身体が記憶ストック出来る魔法は……未だ底をみせていない。


 狂った戦争貴族と呼ばれるノーフェルン家で、世界各地で発生する紛争に駆り出され、酷使されていた俺を求めてくれたのが――今、俺を追放しようとしているパーティ、7月の反乱ジュライ・リバーだった。

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