ゲーマーパーティ転移―ある日、仲間とパーティを組んでダンジョン攻略していたら異世界に飛ばされました。が、レベルアップもステータスもあるこの世界で俺達は余裕で生き残ります―
第35話『今日ぐらいはパーッと食べたいな』
第35話『今日ぐらいはパーッと食べたいな』
「くはぁーっ!」
さすがに気持ちだけではもたず、アルマは地面に倒れ込む。
「ちょうど良いし、一旦終わりにするか」
「だね。これ以上やったら歩けなくなっちゃいそうだ」
アルマは両手を後ろに突き、足を伸ばして天を仰いでいる。
今日の初めこそはレベルアップによる感覚のズレによって、力加減をミスってしまったのは本当に申し訳ないと思っている。
もしも自分が逆の立場であったのなら、あの時点でリタイアしていたと思う。
「アルマの住んでいる村っているのはどういうところなんだ?」
「急だね。何か気になることでもあった?」
「いや。単純に知りたくなった。アルマに優しく接してくれる人々がどんな人達なのかって。そして、そんな心優しい人達が住んでいるんだから、穏やかで綺麗な場所なんだろうなって」
「そう言ってもらえると、なんだか自分のことみたいで嬉しいな」
その優しく微笑む姿を見れば一目瞭然だ。
アルマに対して酷い仕打ちをしている者が居るとすれば、一瞬でも顔を曇らせているはずだからな。
「でもね、期待には応えられないんだよね。だってね、薄々は気づいているかもしれないけど村っていうぐらいだからね。この街の規模と比べると大体半分以下なんだよ」
「俺は、あんまり全体的な大きさっていうのはわからないが、それでも大きい方なんじゃないか?」
「実は僕もそこまで世間を知らないから、他の村がどれぐらいの大きさなのかっているのはわからないんだ。それに、この街みたいに大きな壁があるわけじゃないし、周りは木々が生い茂っている森になっているんだ」
「なるほどな。確かにそういう立地なら、モンスターは脅威になってくるな」
アルマはパッパと手に付いた土を払い、あぐらをかく。
「実はね、誰かに言われたわけじゃないんだけど偶然図書室でとある報告書を見つけちゃったんだ。そこには、以前にも似たようなことが起きてその時もギルドへ依頼を出したらしいんだ。でも、ギルドの動きよりモンスターの方が早くて、村は半壊まで追い込まれてしまったんだって。だから今回はそうなってしまうより前に行動を起こすと決断したんだ」
「そんなことがあったのか」
じゃあもしかしたら、その一件がなければアルマが住む村はもう少し大きく、繁栄と発展を遂げていた可能性があるというわけか。
しかし、生まれる前の事件だったとしても、ギルドへの不信感はあるだろう。
「アルマは冒険者やギルドに抵抗はないのか?」
「正直、僕には記憶がないから、そんな気持ちは抱いていない。それに、僕含み村の人達に戦える術は少なく、結局頼らずにはいられないからね」
皮肉な話、か。
「村のみんなは本当に良い人達ばかりなんだ。父も母も、家出ただ座っているだけじゃなく、自分の足で村人に挨拶をするし、仕事や畑の手伝いもする。みんな一丸となって暮らしているんだ」
「いいな。見ていなくても簡単に想像できる」
「でしょ。カナト達に時間ができたら、是非案内してあげたいよ」
「その機会があったらよろしく頼むわ」
「約束だね」
「ああ、約束だ」
俺も腰を下ろし、木刀と木盾を地面に置く。
「そろそろご飯の時間だな」
「もうそんな時間なんだね。じゃあカナト、言わなきゃならないことがあるんだ」
「ん?」
アルマは姿勢を正して俺に視線を向ける。
「実はね、僕はそろそろ村に戻ろうと思うんだ。早めにギルドへ申請できたとはいえ、村の状況が気になるからね。それに、せっかく稽古をしてもらったのに、肝心な時に間に合わないんじゃ意味がないしね」
「わかった。そうだな、アルマがみんなを護るんだもんな」
「うん。そこでなんだけど……個人練習って、どんなことをやったりすればいいの?」
「あー、それはそうか。そうだなぁ……基本的には難しいことを考える必要はない。盾で防いで剣で斬る。そんな簡単なことで良いんだが、もしも実戦になってしまった場合、良く相手の行動を見るんだ。自分から攻めず、相手の攻撃を観察し、最善の動きを考えろ。――村の人にもそう指導してやってくれ」
「ありがとう。カナトにはお見通しってわけだね」
「まあな。カナトが強くなるのはもちろんだが、一人よりも二人の方が断然良いに決まっている。なら、アルマはこう考える――護るのなら、みんなで。と」
自分のことだけではなく、村の人達まで視野に入れ、行動する。
俺と年齢が一緒だっていうのに、随分と立派な領主じゃねえか。
みんなを護るために強くなり、みんなと一緒に強くなる。
これが人を導くってことか。
俺もパーティリーダーとして、アルマを見習わないとな。
「最後にこれだけはってのがある」
「教えて」
「気持ち、だ」
「え?」
「まあ今は、なんのことやらと思うだろうが、いずれ必ずわかる時が来る。モンスターと対面した時、一瞬にして全身が恐怖に支配され、逃げ出してしまいたくなる」
「……その時に、立ち向かえるか。ということだね」
「そういうことだ。でもまあ、アルマならウルフを始めて見るわけじゃないし、こうやって戦闘訓練だってしたし――何より、自分のために闘うやつとは違って、アルマは村の人を護ろうっていう強い意志がある。だから大丈夫だと思うけどな」
「――ありがとう。でも、ちゃんと胸に刻んでおくよ。僕、こう見えて結構臆病なんだ」
「そうなのか?」
「自分で言うのは恥ずかしいけど、旅の道中を思い出してみてよ。僕は、ずっとみんなの後ろに隠れているか、馬車の中に隠れていた。少しでも手伝いができたはずなのに、怯えて足を振るわせて動けないでいた」
「人間誰しも強いわけではないからな。だから、これから強くなっていけば良い。だろ? しかも、自分からこうして踏み出せたじゃないか」
「ありがとうカナト。僕はカナト達に出会えて本当に良かったと思っているよ」
「なんだか照れくさいな」
「本当にありがとう」
普段は身近な人から感謝を告げられる機会なんて滅多にないから、こういう時の対処に困る。
いったいどんな顔をすれば良いんだよ。
俺は恥ずかしさを紛らわせるために、勢い良く立ち上がる。
「じゃあ、今日ぐらいはパーッと食べたいな」
「それいいねっ!」
アルマも立ち上がり、俺達は地面に転がる装備を回収した後、宿の中へと足を進めた。
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