第14話 危険な男の隠れ部屋

「Maxさん、このあとのご予定は?」


クラブシルキーからの弁護依頼を聞いた俺は、この後のMaxの予定を確認した


「特に……店に行くだけですがなにか?

 十維さん、今日は来られますか?」


「え……?」


「毎日来られてたのに、一昨日は一緒にあの状態なので来ないのはわかりますが、昨日も来られなかったのでどうしたのかなと思いまして」


 Maxは自分が毎日通っていたことを知ってくれていた。それだけでめちゃくちゃ嬉しい。


「昨日は仕事や家庭の用事がありまして、とてもじゃないけど行く時間が取れませんでした。

 今日は行こうとは思ってましたよ。

 今からでもいってよろしいですか?

 あぁでもまだ開店時間まで時間ありますね。


 ではその…… よければ…… 夕飯でも一緒に食べに行きません?まだまだ伺いたいこともあるし」


「あ、ごめんなさい。今日はアルバイトの数が少ないので早ければ早いほど店に行きたいのです。

 そうだ、今から鍵を僕が開けますので、一緒に行きます?店の出す料理でよければ奢りますよ。」


「一緒に食べれるならどこでもいいです!」


思わず本音を出してしまった。しまった!という顔で俯く。


「一緒に?いいですよ。では一緒に食べましょう」


 そうして俺たちは各々の車で店に向かう。

 俺は一旦帰宅して準備を整え、タクシーでいつものように店に向かった。


 準備に時間がなんだかんだでかかってしまい、十維が店に着いたのは開店時間の30分前になってしまった。

 入口はまだ鍵が閉まっているので外からMaxに電話をすると、自動で入口が開き、中に入れた。


 店内はいつもより静かだ。爆音のBGMがない。

 DJが最終確認をしているその音だけが店内を響いている。

 開店準備も急ピッチで行われている。

 バーテンダーやホールスタッフも懸命だ。奥の調理スペースからは怒鳴り声が聞こえてきた。

 少し覗いてみると怒っていたのはいつもMaxの家に泊まる金髪の男だ。怒られているのは調理スタッフ。どうやら仕込みが間に合っていない様子。

 このクラブシルキーは、料理も頼める。それはチンしたものが出てくるのではなく、きちんと調理スタッフが作ったものが出てくるのだ。


そのドタバタを見ていると


「何か面白いものが見えますか?」


Maxが背後にやってきた。


「わぁビックリした!ねぇMax、俺も何か手伝おうか?」

「いえいえ先生は何も。それにもうここまで出来てるので大丈夫ですよ。

 開店準備はここまで出来たんだ。あとは店長に任せれば大丈夫です。

 なので先生は、よろしければ奥にある僕の部屋に行きますか?」


「奥の部屋?はい!行きます!」


 やった!

 営業時間にMaxはいつもどこか見えないところにいて、時折フロアーに降りてくる。それまでがどこにいるのかをいつも知りたかったから、願ってもない誘いだった。


 カウンター横から中に入る。すると金髪男が不思議そうにコチラをみてきたが、俺は無視してMaxのあとを歩いていく。金髪男ではなく俺が今、Max部屋に呼ばれているんだ!という少しだけ優越感があった。


 調理スペース横に小さな階段があり、登っていった先の1番奥にその部屋があった。

 重めな扉を開けて入ると、小さな部屋があった。

 パソコンデスクとソファと、棚があるだけのほんとに小さな部屋だ。ソファだけは3人掛け用が一つと、1人用が3つもある。おかげで通れるスペースはほぼない。

 十維の仕事部屋の半分くらいしかないこの狭い部屋は、防音がしっかりしているようでフロアやキッチンの音など何も聞こえなかった。


「いつもここに居たの?」


「はい。フロアにいないときは大体ここにいました。売上を確認したり、各場所の監視カメラもここで確認できますしね。それに色々と事務仕事もあるんですよ。

 さ、こちらが店のメニューです。何がいいですか?なんでも好きなものを好きなだけ頼んでください。奢りますよ」


「Maxが選んで!おすすめをたくさんお願いします」

「んー、じゃ適当に頼みますね?」


 メニューを見ながら、キッチン部隊へ連絡する。Maxは何をやってもサマになる。とてもスマートでかっこよく、十維は見つめていた。


   かっこいい

   彼の空間にいま俺は来れてるんだ


   Maxの部屋でMaxと二人……


考えるだけでドキドキが止まらない。


 続々と料理が運ばれてきた。パスタにステーキにサラダにバーニャカウダに、そしてワインまで。

 フロアからの音は低音が少しだけ響くだけで、とても静かだ。


「カンパーイ!」


 静かな中、十維の声が響く。

 Maxは物静かな性格なのか、あまり話さないが食べている十維をじっと見てくる。その視線を感じるだけで十維はドキドキしてしまう。


「美味しいですか?

 先生の好みはどれが1番好きですか?

 もし美味しくないものがあるなら、正直に教えてください。

 是非とも、どうダメなのかアドバイスいただきたいんです」


 Maxに見られてる状況で食べているものに味などわかるわけない。


「どれもとても美味しいですよ。

 僕が料理をアドバイスなんて……とてもとてもそんなこと出来ませんよ」


「実はこれも悩みの一つなんですよね。万人受けする料理が良いとは思うのですが、どれを食べてもパッとしないというか、話題にならない。それではお客様は料理に期待しなくなる。

 見た目だけ重視して作るのは簡単だ。

 けどそれでは一過性に過ぎない。

 そんなでは、次に来ても同じ料理を頼もうとしないじゃないですか。

 僕は料理だけでも行きたい!と思ってもらえるくらい、価値のある店にしたいんです。

 そしてゆくゆくは、レストランも出したいとも思ってるんです。

 どなたか良いアドバイスをくれる方をご存知ないですか?そういう人がいたら是非とも紹介して欲しいんですがいかがですか?」


「レストラン!いいですね。出来ることは何でも協力します! 

 良いアドバイスかぁ、そうですね……

 誰が食べても喜んでくれるものを作れるひと……

 あ!一人浮かびました、がそのひとを呼ぶにはハードルが高い。ですけど、少し相談してみましょうか」


「本当ですか!是非ともよろしくお願いします。

 アドバイス料などはきちんと払いますので!

 さ、どんどん食べてどんどん呑んでください」


 Maxの隠れ部屋で、Maxと2人。

 十維は夢見心地だった。

 Maxに喜ばれることはなんでもしてあげたい、そんな幸せいっぱいの心なのでした。

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