第11話 寧々と家政夫と恋人と

 引越しのあいさつを10階で終えてのエレベーターの中で寧々は十維に言ってきた。


「ねぇお兄ちゃん、あの康太さんてかたどう思う?

 優しそうで可愛くて男性だけどなんだか女性っぽくなかった?

 私、あの方と仲良くないたいわ。

 ほら、前から言っていた花嫁修行、あの方から教われないかしら?」


キラキラの笑顔で言ってきた。


「そんなこと、彼は若林家の専属お手伝いさんだろ?ダメと言われるの決まってるじゃないか」


2人は寧々の家に帰ってからも話す。


「あんなすごく素敵な家政夫さんなんてなかなか会えないわ!ねぇ、お兄ちゃんからも頼んでみてよー。

 あと、それに気づいた?」

「何を?」

「康太さんと、若林社長の関係よ!

 絶対あの2人、恋人同士よ。そう思わなかった?」

「…………思ったよ。」


 そう、康太を見た瞬間思った。彼はコッチ側の人間だと……。


 俺は昔から女性とも付き合うが、男性のほうが、より興味があった。引き締まったボディをした男性をみると胸が熱くなった。

 初めそれは自分が理想とする、なりたいボディだからだと思っていた。だから俺は自分の身体を鍛え上げるために、休まずジムに通い頑張った。


 そんなある日、バーで初めて会った男性と、酔った勢いでキスをした。その瞬間、自分のことが初めてわかった


   俺はそうだったのか、


   俺はコッチ(ゲイ)の人間なんだ……



と……。

 わかると同時に、このまま名前の知らない相手と最後までイッてしまいそうな自分が怖くなり、急ぎバーを出て帰宅した。

 後から知ったが、そこはゲイの出会いの場として有名な店であった。以降、そのバーには行っていない。


 自分の本当の嗜好がわかると、世の中で見ていた景色が一変して見えてきた。理想としていたムキムキの体型は自分がなりたいのではなく、その胸板に抱きつき、抱かれたいと言う衝動から来るものだと分かった。

 街を歩いていても、少しでも肌の露出がされている男性を見ると胸がときめいた。


 しかし、そのどれもが、世の中的にタブーな世界というのもわかっている。

 だから、決して誰にも話してはいけない、知られてはいけないものだと理解していた。


 ところがある日、寧々が突然部屋に来て言ってきた。


「お兄ちゃんって……やぱ男の人好きなの?」


 寧々から言われたその言葉に俺はドキッとした。寧々は昔からBL漫画が大好きで読みあさっていた。その本をたまに俺も借りて読んでいたのだが、俺の自分でも気づかなかった嗜好を言い当てたのだ。


 何を見て思ったのかは分からないが、自分の嗜好を一生秘密にして生きていく覚悟もしていた俺だが、身近な妹が理解し喜んでくれることが嬉しくなり、その場で俺は認めたのだった。


「あぁ、どうやらお兄ちゃんはゲイなようだ。どうだ?嫌うか?」


「うううん!私はそれでいいと思う!お兄ちゃんがそっちの人で私は嬉しい。

 いい人が出来るといいね!応援するよ」


 それからは時折寧々に話すことで、自分の承認欲求を満たしていた。

 おかげで誰にも言えない辛さは無くなったのだが……

 人はやはり欲深いもので、誰にも話せないものが、誰かに話せるようになると、今度は次の欲求も出てくる。

 今度の俺は、リアル彼氏が欲しいと思うようになっていた。

 誰かと付き合いたい、誰かに愛されたい!そう思うようになっていたのだ。

 今度はその思いが満たされないつらさになっていた。

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