FLOWERs 〜危険な男と一途な男編〜

兼本 実弥

第1話 オレが十維だ!

「あと5回おかわりいっちゃう?」

「いいねー、行こうぜ!」

「よっしゃ!レッツゴー!」

「ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハーー!」

「オッケー!おつかれさーん」


 スポーツジムで、いまオレはトレーナーゴンちゃんからの指導で運動を終えたところだ。

 俺の名前は、高柳十維(たかやなぎとうい)。年齢28歳。仕事は貿易会社の専属国際弁護士。

趣味は筋トレ、自分の身体をほどよくムキムキにし、維持することに快感を得ている。

 3度の飯よりトレーニング、これが俺だ。


「ねー、私、ここ初心者なんです。この後よろしければ少しトレーニングについて教えていただけません?」


 豊満な胸をしたスタイル抜群の女性が声をかけてきた。


「ごめんねー、時間はいつもないんだ。」


さらりと返答する。


「トーイ、マジか!あんな素敵な女性からの誘いも断るなんて!マジかよー!」


と、ゴンちゃん。


「お前のようにハイスペックなやつが気にいる人ってどんな人なんだ?」


今日のゴンちゃんは食い下がる


「ハイスペック?俺はそこまでじゃないよ」


荷物をまとめながら十維は返事をした。


「お前がハイスペックじゃないなら誰がハイスペックなんだよ!

 家は代々続く名家で現在は貿易をはじめとする大企業!しかもお前はそこの次男!顔も端正だし、学力も申し分なし!仕事は親の子会社のことろとはいえ、弁護士だろ?

 なにより性格がいい!

 お前をハイスペックと言わずしてどうよぶ!

 で、お前は一体どんな人が好みなんだ?」


「んー。

 俺さ、好きになるかどうかは3秒で決まるんだよね。3秒みてときめかない人は一生ときめかないって気づいたんだよね。

 それにもうこの年だし、次付き合うとしたらちゃんと結婚まで考えたいんだよなー。だから余計に慎重になってるかもな。

 それじゃ、これで。」


「明日も来るか?」


「明日は妹の引っ越しを手伝うから、無理だな。」


 シャワーを済ませ、ジムをあとにする。

 十維の愛車はベントレーのコンバーチブル。派手な車だ。それに乗って颯爽と帰っていった。

 


 自宅の敷地に入ると玄関先に人が待っている。


「おかえりなさいませ、お車は私が。」


 車を駐車場係へ任せ、自分はそのまま家に入る。


「おかえりなさいませ」

「おかえりなさいませ」

「おかえりなさいませ」


 次々とお手伝いさんがあいさつをしてくる。

なんとこの家には常時12人ものお手伝いさんがいる。


 家に入り何部屋も通り過ぎた先にある部屋の前で立ち止まりノックをする


「どーぞー」


中の声を確認して部屋に入る。


「あ、十維お兄ちゃん」


 部屋にいたのは妹の寧々。明日から大学近くの億ションで1人暮らしを始めるのである。


「準備は出来たか?」


「多分……?忘れてても取りに来ればいいし。大丈夫だと思う!お兄ちゃんこそ、明日いいの?」


「俺の仕事は何とでもなるから大丈夫だよ。それに仕事よりも妹の引越しのが重要任務だよ」


「俺がいけないから頼んだんだよ。いつもすまんな十維」


 十維の後ろから現れたのは、長男の朝陽(あさひ)。

彼が高柳家の跡取りである。


「いいんだよ、兄貴は役員会があるだろ?俺はクライアントとの予定を事前調整すればいいだけなんだから。

『出来ることをできる人がする!』これが家訓だろ?

 俺は、兄貴を支えるために俺がいるんだから。気にするなよ。それより会社を頼むよ!社長!

 さーて、明日の準備も出来てるようだし、俺は寝るよ。おやすみ」



 十維の部屋は朝陽や寧々の部屋があるこの本家ではなく、そこから奥にある長い長い廊下を渡っていった先にある、離れにある。

 この部屋には、昼間お手伝いさんが掃除に一度来るだけで、あとは誰も訪れない。十維の1人の空間である。

 静かでいいといえばいいその空間は、自分の部屋から本家を見た時の、その距離を見ては、どこか

『自分がここに存在していいのか』

と疑問に感じずにはいられない距離なのだった。



 朝食はみんなで食べることが決まりの高柳家。

父、母、兄、兄嫁、兄の子ふたり、妹、それに、十維。家にいるならばこの8人で食べる。

 そしてこの日は8人で食べる最後の朝食だ。


「十維、今日はみんなのために、うちの姫様を頼んだぞ」

朝陽が言う。


「十維さん、億ションはあのヤングウッズの若林さんとこなのよね?あそこのお母さまって、ちょっとうるさそうだから、挨拶はしっかりとお願いします。あと手土産なんかは大丈夫でしょうか?何か必要ならば準備をしますので、言ってくださいね」

と母。


「若林といえば、当の本人は滅多に人前には現れないことで有名なんだ。もし会えたらどんな人なのか教えてくれ。

 若いがかなり優秀と評判だ。一代であの会社をあそこまで大きくしたんだからな。これを機会に仲良くなっておくことは、我が社にとって損ではないだろう。

 いいか?十維、もし会えたならしっかりと見定めておいてくれよ。それが何よりの我が社にとっての収穫だ。ワッハッハ!」

と、父。


「お土産は、予約済みなのでこれから取りに行ってきます。

 若林さんねぇ……。わかりました、会えたらしっかりと挨拶してきますよ」


 食事を終えると、すぐに引越し業者もやってきた。

 さぁ、寧々の引越しの開始である。


 力仕事は任せてくれと言わんばかりの体型をしている十維。だが、あまりにも引越し業者の動きが手際良くて、何も手伝えない。


「寧々、俺、菓子屋にお菓子をとりに行ってくるわ」


 役立たずの十維は、愛車ベントレーに乗り買い物へと向かったのでした。


   俺はこの家ではやっぱり

   役立たずなんだよな……

   俺の存在するべきところ……て

   どこなんだろな……。

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