今日から幼馴染が俺の彼女友達になった件
結城辰也
第一章
第1話 千弦輝の片思い
あの
だからといってこのまま誰とも付き合わないはそれもそれで尾を引くだろう。
せっかくの物種だ。なんとか旨いこと言いくるめられないのか、俺自身の言葉で。
そもそも俺が恋した相手は幼馴染の
あんな性格だからどこからが付き合えるサインなのかが判り辛い。もしかしたら俺の玉砕で終わる可能性がある。むしろ振られる様に一票をだ。
ああ。自信がない。こうしている間にも瀬乃一花の気が知れない。どうして俺がこんなにもモヤモヤしなければいけないんだ。
今になって始まったことではない。だが定番の放課後に会う約束をしている。今の話をすれば俺は校舎裏にいる。はたして瀬乃一花はくるだろうか。いいや。くるに一票だ。なぜなら瀬乃一花は天然だからだ。
ここまできても言われない限り気付かない恐れがあった。それよりも振られたくない。このままなにも思いつかないで会えば逆に何事扱いだろう。ことを荒立てたくはない。だがなにも思いつかない。どうするべきか。
酷いことは言いたくない。だからといって俺がなにも思いつかなかったら被害が甚大だ。ああ。なんて胃にくるんだ。今すぐになかったことにでもしたい。
「あ、あの! 千弦くん?」
どうやら瀬乃一花は真後ろにいるようだ。確かにこの声は瀬乃一花だ。間違いない。癒しを与えるであろう声音は透明度があり濁りがない。まさに最強だ。
慌てることはせず俺は振り向いた。この時の瀬乃一花は帰る準備を終えていた。それもそうか。かくいう俺も告白は終われば帰るだけだった。
は!? 告白!?
「千弦……くん?」
しまった。告白をしないといけない光景が浮かび気が動転していた。思わず俺は胸に手を当てた。心の音が感じ取れた。静かに両瞼を閉じ深呼吸する。
瀬乃一花は厭きれたようだな。ほんのちょっとしか経っていないのにな。とはいえ文句や悪態は感じ取れない。感謝しつつ俺は深呼吸をやめ手を元の位置に戻し両瞼を開いた。
「お、おう。呼び出して悪いな。瀬乃さん」
怖気付いた。喉にすら力が入らなかった。腹からの声は程遠かった。それでもなんとか言い合えるような気がした。ここからが敗けられない。俺の恋の行方はいかに――。
「ううん。大丈夫だよ、今日は一人だから」
とはいえもう夕方だ。早くしないとさすがの瀬乃一花も困り果てそうだ。だからここは潔くいくぞ。いわば単刀直入にだ。しかも冷静にだ。冷静に――。
「俺に変な虫が付いたらどうする? 今日からお前が俺のカノ友になれ!」
「あの千弦くん? カノ友ってなにかな?」
「へ?」
今になって思い付いた。余りの動転でカノ友と略してしまった。これは多分だがカノ友は彼女友達の略だろう。冷静さを取り戻せば取り戻すほどにそう思えてくる。
不味い。白い眼で見られている。ましてや未だに天然であることが分かる。気付けよ。いや。むしろ気付くな。ここで振られるなんてごめんだからだ。ここは言いくるめてやる。
「あー! カノ友は彼女の振りをした友達の略だ!」
「え?」
もう言いくるめるしかない!
「だからさっきも言っただろう? 俺に変な虫がつくって! 嫌なんだよ! これ以上にモテるのは!」
「つまり私に偽装カップルのカノ友を演じさせようってことかな?」
「お? その通りだ。いいだろう? 別に」
「いいけどさ。私でいいのかな? もっと他に――」
「ない! 瀬乃さんが適任なんだ! ここは一肌脱いでくれ! この通りだ!」
「分かった! そこまでされたら応えるしかないよね?」
「有難う! 恩に着る!」
「千弦くんのためだし私……頑張るよ。んじゃ」
「え?」
この流れは一人で帰るつもりか。まさかの天然オチは防がなければ――。
「待ってくれ! 瀬乃さん!」
「どうしたの?」
「俺たちは間接的にもう付き合っているんだ。分かるよね?」
「うん! あ!?」
「そうだ。一緒に帰らないか、途中まで」
「そうだね。んじゃ行こう。千弦くん」
「おう!」
こう見えてもモテる俺はなんとか瀬乃一花を言いくるめることに成功した。
間接的に付き合えることになったし後はあっちが好きになるようにするだけだ。
これからが本番と言わんばかりに俺はカノ友の瀬乃一花と共に下校したのだった。
今日から幼馴染が俺の彼女友達になった件 結城辰也 @kumagorou1gou
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