元カノ幼なじみがウザすぎる

水無世斎宮

第1話 幼なじみなんてろくなもんじゃねえ その1

 「なんであんたが私の家に来んのよ」


 僕が家に入るや否や、銀髪をなびかせてこの家の住人が出てくる。

 こいつは生まれた頃からずっと一緒にいることを強要されてきた、いわゆる”幼馴染”という存在だ。


 「君の親に頼まれたからだろ」

 「毎度毎度なんであんたにお守りされなきゃいけないわけ」

 「は?それはこっちのセリフだ」


 こうやって僕らは事あるごとに言い合いをしている。

 こんなことしなくとも、この状況を打開する方法はないことは分かっている。両方の親が家にいないとき、どちらかの家に集まるというのはもう十年ほどやっていることだ。

 十年ほど前、親にそう言われて「わかった」と答えた僕を今となっては全力で恨む。

 

 …だから、この言い合いは無駄なのだ。

 それならやらなければいいといわれてしまうかもしれない。

 でも、これはお互いに牽制しあう、もう僕たちの間には何も起こりようがないということを再確認する、儀式のようなものだった。少なくとも僕はそういった意味合いがあると思っている。



 「—―あ、優くん来てくれたんだー。ごめんねー。今から出かけるもんだから」

 「いえいえ」


 外行きに着飾ったカーチャさんが、リビングから出てくる。

 カーチャさんというのはこの腐れ縁幼馴染の母親だ。本名は山本エカチェリーナ。

 お察しの通りロシア人である。

 ロシアでは親しい仲の人は愛称で呼ぶのが通例らしく、“カーチャ”という愛称で呼ぶように言われてきた。

 もう日本に来て20年以上経つらしいので日本語はペラペラだが、この綺麗な銀髪に日本語というのはいつになっても慣れないものだ。


 「いつもいつもほんとにありがとねー」

 「…大丈夫ですよ」


 本当は全然大丈夫じゃない、というかこんな事今すぐやめたいが、カーチャさんは心配性で一人娘を残して出かけるということが出来ないらしい。

 この女がどうなろうと全く興味はないが、この女のせいでカーチャさんが出かけられないというのはかわいそうなので今でも渋々受け入れている。


 「いや~優くんみたいな人がこの子の彼氏になってくれたらおばさんも安心なんだけどな~。ねえ、うちの子もらってくれない?」

 「…ははは」


 誤魔化すようにして笑う。

見なくてもわかる。隣にいる女も同じような反応をしているに違いない。

――だって


 「いや~我が子ながらかわいいと思うんだけどなあ。まあいいや、それじゃあ今日もよろしくね!仲良くするのよ」


 そう言い残してカーチャさんは出かけてしまった。


 年齢を疑うレベルに綺麗な人だ。

自分のことをおばさんなどと言っていたが、そんな風には一切見えない。

…その血を受け継いだこいつも顔だけはすこぶるいい。顔だけな、顔だけ。


 「…なによ」

 「いや、優しいカーチャさんとは大違いだなと思って」

 「なっなによ、そっちこそ美結ちゃんはあんなに可愛いのに大違いよね。

妹と比べて落ち込んだりしないわけ?」

 「「ふんっ」」


 まあ今はこんな感じにいがみ合っているので信じてもらえないかもしれないが、この女と僕は一年ほど前まで付き合っていた。

 心配性なカーチャさんがそれを知ったら僕たちが二人きりになるのを嫌がるかもしれない。そう思った僕らは事実を隠したのだが…。

 その決断は愚行だったと言わざるを得ないだろう。

…だって、こんな状況を生み出してしまっているのだから。




………………………

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