ハリネズミのジレンマ

硝子匣

ハリネズミのジレンマ

 ある森にハリネズミとリスがいました。

二人は森の広場でお喋りをしています。

「ねえハリネズミくん、ウサギさんは寂しいと死んじゃうんだって」

 リスは、ウサギさんは寂しがりなんだねと、なんだか間の抜けたことを言っています。

「……そんなことはないんじゃないかな」

 ハリネズミはニヒルに答えました。

「そうかな? ボクは一人だと悲しいよ。もし、ウサギさんが一人でいたらボクが友達になってあげるよ」

「そうかい。だったら、そうしてあげるといい。きっとウサギは喜んでくれるさ」

「うん」

 リスはとても嬉しそうです。きっとハリネズミが賛成してくれたからでしょう。

「でも、もし寂しくて死んでしまうなら、オレはとっくに死んでるな」

 ハリネズミは寂しげに言いました。それを見たリスは不思議そうに首を傾げながら言いました。

「どうしてなの?」

「『ハリネズミのジレンマ』さ」

 ハリネズミはたまに難しいことを言ってリスを混乱させます。やっぱり、リスはハリネズミの言うことがよく分かっていないようです。

「くっつきたいのに、オレたちはこの尖った針があるからくっつけない、つまり行動したいのにそれを邪魔するものが付いて回るってことさ」

「へえ、ハリネズミくんは物知りだね」

「そうだね……オレたちはくっつきたくてもくっつけない。だから、寂しくても距離を取らなくちゃいけないんだ」

 ハリネズミはとても寂しそうで、恨めしそうに自分の針を見ては溜息を吐くのです。

 でも、そんなハリネズミを見るリスは相変わらず不思議そうな顔をしています。

「どうして? ハリネズミくんは一人じゃないよ。だってボクがいるもの」

「フン……知ってるさ」

 ハリネズミは丸まって、リスから顔を背けてしまいました。でも、彼の針は穏やかなままでした。

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