二月と三月の会議

クロノヒョウ

第1話



 毎年十二月三十日に行われている月の会議に一番乗りでやってきたのは二月と三月だった。


「どうもどうも、こんばんは」


「やあ二月さん、お疲れ様」


 場所はとあるホテルの最上階のレストラン。


 個室に大きな丸い円卓があり、二月と三月は隣り合わせに座った。


「今年も俺たちが一番か」


「ですね。皆さんお忙しいようで」


「忙しいって、俺だってバタバタしてるよ。三月は卒業やら引っ越しやら、新生活に向けて忙しいんだ」


「そりゃあ僕だって少しは」


「ああ、二月はなんと言ってもまず日数が少ないからな。あっという間だ」


「そうなんですよね。本当に不公平だって何度も上に言ってるんですけどね」


「そりゃあ無理なお願いだ」


「本当に僕、なんだかおまけみたいで肩身が狭いんですよ」


「そうか? でもあれだ、バレンタインがあるからいいじゃないか。俺んとこのホワイトデーなんて、あってないようなもんだぞ?」


「あは、確かに、ホワイトデーっていまいち盛り上がらなくてピンとこないですよね。でもほら、三月は後半はもうお祭り騒ぎじゃないですか」


「ん、ああ、花見だな。あれはみんなで酒を飲む理由を作ってるようなもんだ。俺はやっぱり四月になりたかったな」


「四月ですか? どうして?」


「なんだかわくわくしないか? 新しい生活、新しい出会い、そして後半のゴールデンウィーク」


「ゴールデンウィークを出すなら五月さんのほうが多いじゃないですか」


「五月はいろいろと大変なんだよ。ほら、五月病とかっていうだろ?」


「まあ、それもそうですね」


「二月、お前は誰に憧れてるんだ?」


「僕ですか? そうだな……七月さんか八月さんかな」


「マジかよ。あのくそ暑いのに? 七月は梅雨でじめじめだし八月は猛暑で熱中症になるわだし。大変だぞ?」


「それでも僕みたいにくそ寒いよりはマシですって」


「そうかな……」


「じゃあ三月さんは? 誰に憧れますか?」


「俺は……そうだな、十二月と一月は絶対イヤだしな」


「え、どうしてですか?」


「だって十二月はもう何がなんだか。十二月になったとたんいきなり忙しくなるだろ? 忘年会だ大掃除だお正月の準備だって、やんなきゃいけないことがたくさんあるのにさらにクリスマスがくるんだぞ? もうてんやわんやだ」


「あは、じゃあ一月は?」


「一月はちょっとつらい。お正月は休みが多くていいんだが、実家問題が発生する。いろいろとめんどくさいんだ。そして休みあけのあのダルさ。自分のリズムを取り戻すのに必死だ。やっと取り戻したと思って気が付けばもう二月。そして短い二月はなぜかあっという間に終わる」


「やっぱり僕の存在感ってそんなもんですよね」


「……まあ、そう落ち込むなよ」


「みんなが開放的になる七月さんと八月さんがうらやましいな」


「そうか? 俺は二月も悪くないと思うけどな」


「どこが……ですか?」


「いや、その、ほら! チョコがたくさん食べれるじゃないか」


「そんなの、食べれない人はむなしいだけですけど」


「そっか……じゃああれだ! 四年に一回の」


「あれもたまに苦情がくるんですよ。勝手に一日伸ばすなとか」


「え、そうなのか? 大変だな」


「誕生日がわからないとか、はっきりしろとか」


「そうか……」


「はぁ……やっぱり僕だけなんか損してますよね」


「そんなことないって。俺は二月は好きだけどな」


「え、本当ですか?」


「ああ。バレンタインのおかげで幸せになれる人もたくさんいる。それを俺が引き継ぐ。お前がいないとそれもできないからな」


「そっか。僕たちはいいコンビだったんですね」


「そういうことだ」


「へへ、ありがとう、三月さん」


「な、俺は別に何も……」


「それにしてもみんな遅いですね」


「あ? まあ、そのうちくるだろうよ」


「わっ! 見てください三月さん。月がとっても綺麗ですよ」


「おお、本当だな」


「ふふふ」


「はは……」



 毎年行われている月の夜会議。


 二月と三月、二人は十二の月たちがそろうまで楽しそうに夜空を眺めていた。


 

           完




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