第三〇話 北海に昇る旭日

 9月6日、ロンドン。


 今日この日、ロンドンの町中には、日章旗が飾られていた。

 というのもそのはず、ドイツ海軍の攻撃にうなされ、いつ本土が攻撃されるかもわからない中、強力な援軍として日本軍の主力艦隊が駆けつけたのだ。


「本当に、何と言っていいのか……」

「旧敵に力を借りるのは気に入らないが、我々だけでは限界が見えてきていたからな」


 チャーチル首相は頷きながら、キング元帥はそっぽを向きながら、日本海軍の司令長官としてロンドンへ出向いた、山本五十六にそう述べた。


「チャーチル首相、我が帝国海軍は英国海軍の力を借りて、バルチック艦隊を打ち破り、目覚ましい成長を遂げることが出来ました。恩人に恩を返すのは武士道として当たり前のことです」


 そう言って頷くと、今度はキングの方へ向き直る。


「キング元帥殿、今回は我が大日本帝国が多大なるご迷惑をアメリカ合衆国にお掛けしましたこと、深くお詫び申し上げます。日本の民主化、内戦の終結にご協力いただいた御恩をわずかながら、ここで返す所存であります」


 対独同盟、米英日の三国同盟が結ばれた瞬間だった。


 戦場へ到着した日本艦隊は、燃料の補給、英米艦隊との簡単な合同演習を終えると、イギリス海峡、北海の制海権を確たるものにするため、錨を上げた。




 9月16日、欧州遠征艦隊、空母『赤城』。


「偵察機より伝令!」


 その報告が、空母『赤城』の艦長を務める青木泰二郎の耳に入る。


「読め」

「はっ! 『我、北海にて敵艦隊発見。戦艦五、空母二ヲ含ム大艦隊、敵主力艦隊の一部ト認』」


 青木は大きく頷き、艦長席より立ちあがった。


「旗艦『長門』に知らせ! 『敵大艦隊ヲ認』」

「旗艦『長門』へ、『敵大艦隊ヲ認』、伝送します!」


 瞬く間にこの報告は三国連合艦隊を巡り、各艦で戦闘配置の号令が掛かる。


三国連合艦隊概要


日本

戦艦『長門』『陸奥』『扶桑』『榛名』

空母『赤城』『加賀』『龍驤』『瑞鳳』

重巡『足柄』『摩耶』『古鷹』『妙高』

軽巡『神通』『那珂』『多摩』『球磨』『阿賀野』『夕張』

駆逐『吹雪型』10隻『暁型』2隻『初春型』2隻『白露型』3隻

  『陽炎型』2隻『秋月型』2隻『夕雲』1隻


イギリス

戦艦『ネルソン』『プリンスオブウェールズ』『レナウン』

空母『アークロイヤル』『インドミタブル』


アメリカ

戦艦『メリーランド』『ノースカロライナ』『サウスダコタ』 

空母『レキシントン』『ワスプ』『エンタープライズ』

重巡『ポートランド級』2隻 『ボルチモア級』2隻

軽巡『セントルイス級』2隻

駆逐『フレッチャー級』20隻


総数 戦艦10隻 空母9隻 重巡8隻 軽巡8隻 駆逐42隻



 英米は、輸送船団の護衛や英国本土防衛として僅かに艦を残し、それ以外の万全な全勢力を結集、この連合艦隊へと参戦させた。

 日本は、最悪英米の海軍が全滅、もしくは一切動けなくなる可能性を考慮し、送れるだけの艦隊戦力。ドイツ海軍を丸ごと相手にする覚悟で、歴戦の乗員たちを乗せた、新鋭艦を含む大艦隊を参戦させた。


 その結果、三国連合艦隊は空前絶後の大艦隊となり、史上最大の開戦を任されることなった。


 一方、ドイツも温存してきた主力艦隊立ちに、ほんの最近就役したばかりの最新鋭戦艦、空母を加え、これに対抗する形を取った。

 肥大化したドイツは、陸軍国家とは到底思えないほどの艦隊戦力を持っており、三国連合艦隊に並ぶ量の艦を出撃させた。


 しかし、それでもドイツは限界まで艦を出撃させたため、潜水艦以外、艦が港にいない状態となる、背水の陣であった。



ドイツ海軍概要 (最終偵察情報による)


戦艦

ビスマルク級『ビスマルク』『ティルピッツ』『ラインハルト』

シャルンホルスト級『シャルンホルスト』『グナイゼナウ』『マンシュタイン』

ハノーファー級(H41級)『ハノーファー』『フリードリヒ』『ヴィルヘルム』

             『フッテン』


空母

グラーフ・ツェッペリン級『グラーフ・ツェッペリン』『ヒンデンブルグ』

ヤーデ級『ヤーデ』『ハンブルグ』『ブレーメン』

アンスヴァルト級『アンスヴァルト』『オスヴァルト』『ヘルマン』


重巡

アドミラル・ヒッパー級『アドミラル・ヒッパー』『プリンツ・オイゲン』

           『ザイドリッツ』

ドイッチュラント級『ドイッチュラント』『アドミラル・グラーフ・シュペー 』

         『アドミラル・シェーア』


軽巡

『ケーニヒスベルク級』5隻『ライプツィヒ級』4隻


駆逐

『Z1級』3隻『Z23級』21隻『Z35級』14隻『Z46級』21隻

『Z51級』5隻


潜水艦

『Uボート』92隻


総数 戦艦10隻 空母8隻 重巡6隻 軽巡9隻 駆逐64隻 潜水艦92隻




 敵艦隊発見から数十分後、空母『赤城』甲板上。


「一同、航空参謀殿に向かって、敬礼!」


 甲板に並ぶ攻撃隊のパイロットたちの前に、士官服を纏う男が一人。


「諸君、今回の先制航空攻撃は、我ら帝国海軍が欧州に来たということを知らしめるいい機会である。ぜひ、存分に力を奮ってもらいたい」


 名を源田実、『赤城』の航空参謀を行いながら山本元帥の命により、海軍全体の航空隊の改革を行っている。


「諸君らには、『零式艦上戦闘機』の新型、『五二型甲』を用意した。散々文句を垂れていた、20粍の弾持ちが改善されている。これで、撃墜戦果も上がること間違いないな」


 そんな言葉に、戦闘機隊から軽く笑い声が上がる。


「また、攻撃隊の面々にも新型の艦上攻撃機『天山』を用意した。残念ながら爆撃隊はこれまで通り『九九艦爆』だが、文句はなしだ」

「源田航空参謀殿! 本国では新型機を研究していると聞きます! それはどうなったのでしょうか!」


 一人の艦爆乗りが果敢にもそう尋ねる。


「よく知っているな。確かに、新型艦爆『彗星』はすでに配備可能ではある。だが初の水冷機でもあるから、信頼性がまだ低い、だから今回の遠征にはもってこなかったんだ」

「なるほど! 納得であります!」


 咳払いし、改めて源田は話始める。


「それでは、今回の具体的な作戦を説明する」



 同時刻、戦艦『長門』甲板上。


 各員が対空戦闘配置に付いたとき、艦内放送にて、山本元帥の声が響く。


「各員、そのままの姿勢で聞いてくれ」


 乗員たちはその一声で山本元帥の声と気づき、身をこわばらせる。


「今回の戦いは、恐らく空前絶後の大海戦になると想定される。あの日露戦争時の日本海海戦なんて、鼻で笑われてしまうほどのな」


 実際に日本海海戦に、一水兵として参戦していた山本のこの言葉は、乗員にとんでもない衝撃を与えた。


「発達した砲と魚雷により交戦距離は格段に伸び、新たな兵器たちである潜水艦、航空機によって、戦場は平面から三次元へと変化した。そんな難しい戦場に、君たちは挑むことになる……だが」


 険しい声で話していた元帥は、急に声を明るくした。


「最高に面白い勝負になるとは思わないか?」


 山本は軍略家でもあるが、同時に生粋の博打好きでもあった。そんな山本は、この戦いの場で、大きな賭けをしたのだった。


「この戦場で我々が勝利を納めれば全艦の乗員に報酬金を出そう。イギリスの国庫と海軍省の金庫が開くのだ、足りないなんてことはあるまい」


 その一言に、乗員たちは色めき立つ。


「だが、負けるようなことがあれば、私は腹を切って、この『長門』と共に北海へ沈む。日本海軍の父であり師であるイギリスを助けられなかった責任を取ってな……だから皆の者、よろしく頼むぞ」


 大きく深呼吸し、元帥は最後に一言言い放つ。


「皇国と英国の荒廃、果ては世界の荒廃はこの一戦にあり! 各員、奮励努力せよ!」


 戦艦『長門』のマストには、旭日旗、英国旗と共に、Z旗が掲げられるのだった。

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