第四三話 南京陥落
1945年5月2日。
「クッソ、一体何度目だ?」
「多分六回目だな、懲りずにまあよくやる」
「しょうがないだろ、挺進連隊の応援が来るまで、敵の目を引きつけなきゃいけないんだから」
日本軍の兵士たちが塹壕から顔を出し、砲撃に晒される南京の町を見ながら話す。
「挺身連隊はいつ来るんだ?」
「予定だと、あと2~3日後らしいぞ」
現在、南方に勢力を広げていた第一軍団の一部は、南京の包囲戦に挑んでいる。しかし、張り巡らされた鉄条網と塹壕、町を守るように立つ城壁が、日本軍の攻撃を防いでいた。
「アメリカがよこした『特四型戦車』で突破は出来ないんかな?」
「無茶言うな、『特四型』だって
現場の兵士たちが期待を寄せていた『特四型戦車』とは、アメリカが輸出してくれた『M4A2シャーマン』のことであり、現在日本では、急ピッチでこれを分析、日本製の新型開発を急いでいる。
しかし第二次日中戦争では間に合わないと考えられているため、アメリカに追加の『M4シャーマン』を発注し、約100輌が戦線に参加している。
「結局、空の援軍が来るのを待つしかない、のか」
「そうだな……お、砲撃が止んだぞ、次は俺たちの番だ」
塹壕に身を潜めていた兵士たちは、小銃を握りしめ、号令を待つ。
「全員、突撃! 前ぇ!」
号令が下ると、大地が轟くほどの雄叫びを上げて、兵士たちが一直線に南京を守る敵陣地へ突っ込んでいく。
砲撃、突撃、撤退。これの繰り返しを何度か繰り返した数日後、5月4日。ようやく、現場の兵士たちが待ち望んでいた情報が舞い込んできた。
「本日
軍団長の梅津美治郎中将が凄い形相でそう叫ぶ。
だいぶ手を焼かされた相手であったため、日ごろ能面などと言われる梅津の無表情な顔にも、闘志の色が見えた。
「いつものように、野砲中隊による砲撃を行い、歩兵による突撃を仕掛ける。その際には、温存していた『特四号』も惜しみなく戦線に投入しろ」
持てる限りの戦力を持って、敵を叩く。
「敵地に挺身連隊が降下すると同時に、残っている予備の兵力も全て回して町の中へ突入する!」
その日の8時40分、梅津の宣言通り作戦は実行された。
まず、後方に展開する野砲たちが砲声を上げ、大小さまざまな大きさの砲弾を雨あられの如く敵陣地へ打ち込む。その砲撃が止まぬうちに『特四号』『チハ』が突撃を仕掛け、その後ろに歩兵が続いた。
敵対戦車火器や機銃による抵抗が激しくても退かず、日本軍は前へ前へと進み続けた。
その様子を不気味に思っていた中華民国軍の上空には三機の輸送機とその護衛機。時刻は9時01分。予定より1分遅れで、彼らは駆けつけた。
「目標上空、各員用意よし」
1機あたり20人、計60名が南京上空へと身を乗り出した。
「よーいよーいよーい、降下降下降下!」
部隊長の号令で、一人一人降りていく。
その様子を黙って見ている訳もなく、中華民国軍は機銃や対空砲で落傘降下してくる歩兵を狙う。
しかし、護衛機がその動きを読み、狙わせまいと機銃掃射をかける。
その光景を見ていた梅津配下の軍勢は勢いづき、一挙に進軍速度を速めた。
内部と外部、両方から圧迫される形で中華民国南京守備隊は追い詰められていき、必死な抵抗を見せるも、13時03分。南京には旭日旗が翻った。
――――1945年5月4日13時03分、南京陥落。
そこからの第二次日中戦争はあっけないものだった。
南京陥落の翌日に、英米仏が人道支援の名目で中国へ宣戦布告、インドシナ半島にフランス軍、香港周辺にイギリス軍が強襲上陸を仕掛け上海からアメリカ軍が日本軍に合流した。
あっという間に四国の軍と、共同で参戦した現地の反乱軍は重慶を陥落させた。それでも中華民国は諦めきれなかったのか、四川にまで首都を移し、徹底抗戦の構えを見せた。
だが連合、大亜細亜同盟の軍勢に二重三重に包囲されては勝ち目はないと悟ったのか、1945年6月3日、中華民国は降伏の意を見せ、講和会議のテーブルに着いた。
6月5日に、上海に停泊していた『大和』の会議室で講和会議は開かれ、以下のことを締結するアジア解放宣言が調印された。
以下のことを中華民国へ要請する。
1、インドシナ半島、モンゴル、満州国、蒙古国、朝鮮半島、
チベット、ウイグル、マレーシア、タイ、ビルマネパールを解放する。
2、極東国際裁判に中華民国要人は出頭すること
3、政党政治の形態をとり、健全な民主主義国家に移行すること
4、台湾、北陸を日本領土と認めること
このアジア解放宣言は、戦艦『大和』艦上で調印されたこともあり、別名大和条約とも呼ばれるようになる。
アジア解放宣言への調印にて、正式に第二次日中戦争は終結。
また、民間人・軍人合わせて約6700万の人々が犠牲となった第二次世界大戦は幕を下ろした。
1939年9月1日から始まり、1945年6月5日まで続いた長い長い戦争に、ようやく、終止符が打たれたのだった……。
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