第41話 繋げたいお姉ちゃん

「ようやく本当の恋人になったんだもんね」


 昨日は風邪で休んでいた紗月に、朝の教室で、一昨日あったこと――林間学校から帰ってきたひまりに告白して、無事受け入れてもらったことを話すと、とても感慨深そうにしていた。


 私も笑顔で口を開く。


「うん。本当に幸せだよ。もちろん不安もあるけど、でもこれからは前だけみて進もうと思う。ところで、紗月は莉愛ちゃんとどんな感じなの?」


 紗月は不思議そうに首をかしげていた。


「なんでそこに莉愛がでてくるの?」


 どうやら紗月は莉愛ちゃんの気持ちを未だに知らないらしい。


「莉愛ちゃんも絶対に紗月のこと絶対好きだと思うんだけど……」


 すると紗月は苦笑して「ないない」と首を横に振った。


「あの子、少しは私のこと、お姉ちゃんだと思ってくれるようになっみたいだけど、でも恋愛感情はないんじゃないかな。まぁ、私はさ、たまにドキってすることはあるんだけど……」


「どんな時? ねぇ、どんな時!?」


 私がずいと詰め寄ると、紗月は顔を赤らめて、窓の外に目を向けた。


「……えっと、偶然、手が触れあったときとか?」


 初々しいなとニヤニヤしていると、突然軽いチョップが頭に飛んできた。


「ちょっと。なんでチョップするの?」


 頭を撫でながら問いかけると「なんかイラっとした表情してたから」と返ってくる。


「なんか恋愛上級者みたいな態度してるけど、凜だって初心者でしょ? これまでひまりさん一人としか恋愛したことない癖に。まぁそれはそうとして、凜とひまりさんの恋愛をもとにした『ずっと妹の夢をみていた』は最高だったけどね」


 紗月は青空を見上げて、感謝するように手を合わせて目を閉じていた。私がそれを苦笑いしながら見つめていると、紗月は目を開いて私をみつめた。


「まぁゲーム制作はやめちゃうみたいだけど、これからは小説を書いてくれるんでしょ? 私はまだまだひまりさんについていくよ! 書籍化することになったら教えてよね」


「分かったから、肩ゆさゆさするのやめてよ」


 そのとき、チャイムが鳴った。


 そういえば、私たちはなんの話してたんだっけ。そうだ。莉愛ちゃんと紗月の関係の話をしてたんだ。なんかいいように煙に巻かれてしまったけど、また聞けばいいか。


 私は教科書を取り出して授業の準備をした。


〇 〇 〇 〇


 お昼休みがやって来たから、私はひまりを教室に迎えにいく。


「お姉ちゃん!」


 ひまりはいつも通り私に抱き着いてきた。教室の中ではさやかが「やれやれ」とでも言いたげな顔をしている。


「君たちは本当に人目をはばからないね」


「これは姉妹のスキンシップだから」


 私が言い返すと、ひまりはほっぺを膨らませている。


 突然、背伸びしたかと思うと、唇にキスをしてきた。


「ちょ、ひまり!?」


「お姉ちゃんが姉妹とかいうから……」


 ひまりは天才なのに意外と直情的だ。ま、そういうところが可愛いんだけどね。


「それが『姉妹のスキンシップ』かい?」


 さやかは皮肉な笑みを浮かべて、私たちをみつめていた。


「お嫁さん」


 私がぼそりと口にすると、さやかは顔を引きつらせていた。


「……っ」


 でもクラスメイト達まで何やらニヤニヤと私たちをみていたから、居心地の悪さを感じた私は、ひまりの手を引いて屋上に向かった。珍しいことに、屋上には誰もいなかった。それをみたひまりは、何やらニヤニヤしている。


 私はそれに気付かないふりをして、いつものベンチに座った。


 するとすぐにひまりは私の膝の上に、向かい合わせに座ってきた。


「おねーちゃん。ちゅーしよ」


 甘える顔が可愛すぎる。くっ。このままだとお昼ご飯を食べるのではなくて、ひまりを食べることになってしまいそうだ。……って、だめだめ。流石に学校でそういうことは。


 私はひまりを頑張って動かして、隣に座らせる。


「……莉愛ちゃんもこれくらい、直情的だったらなぁ」


 莉愛ちゃんはすぐに自分の気持ちを誤魔化してしまうのだ。恥ずかしいという気持ちはよく分かるけれど、そのせいで、二人は未だ付き合えずにいる。


「莉愛ちゃんがどうしたの?」


「紗月と莉愛ちゃんって、まだ付き合ってないらしいんだよ。莉愛ちゃん、明らかに紗月のこと好きなようにみえるし、紗月だって莉愛ちゃんのこと気になってるみたいなのに」


 するとひまりは突然、難しい顔をした。


「どうにかして、二人をくっつけられないかな? 紗月さんがお姉ちゃんの告白を後押ししてくれたんでしょ? だったら、二人にも幸せになってほしいよ」


「……そうだねぇ。一番いいのは莉愛ちゃんに告白してもらうことだと思うんだけど」


「まずは莉愛ちゃんと接触しよう。明日休みだから、一緒に外で遊ばない? って連絡してみるね。でも土曜日は部活あるみたいだし、日曜日になるのかな?」


「そっか。あ、もちろん紗月は誘わないようにお願いしてね」


「うん!」


 そうして私とひまりと莉愛ちゃんは日曜日、一緒に遊ぶことになった。

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