my Destiny
@mydesti88420091
第1話 その出会い。 運命
ガタゴトと揺れる電車の中、青年は一枚の
カードを見つめる。
年間パスポートと書かれたそのカードには紅
羅夢希と自分の名前と写真が堂々と書いてあ
った。
電車内の電光掲示板には
『豪雨があったため遅延しております』
と彼のココロを曇らせる文字が映っている。
(この電車、間に合うかなぁ……?)
電車はもう五分以上遅延していおりお目当て
のショーが見れないかもしれないとアセル青
年に応えたのか電車はやっと最寄り駅に着き
ドアが開く。
と同時に急いで目的地へと出向いた。
近くのバス停へ行く途中、突如風に乗って小さなハンカチが舞ってきた。
どうやら前方に居る女性の物のようだ。
「あの、すみません。これ……」
青年……夢希はハンカチを差し出す。
その女性は鎖骨くらいの髪の長さでハーフアップをしていた。
薄い黄色の七分袖のカッターシャツに黒ベースに白い水玉のキュロットを着ている。
女性は走って駆け寄ってきた。
「あ、ホントだ!すみません、ありがとうございます!あの……」
女性は戸惑いながらも
「これも何かの縁なので相席……よろしいですか?」
と突然の誘いに
「ふぇぇっ!」
と夢希は素っ頓狂な声を発した。
相席なんて彼の人生上初めてだ。
女性のお誘いを断る訳にはいかず、
時間が押しているのもあるのか顔を真っ赤にして急いでバスに乗った。
彼はこういうお人好しで物事を真に受けると
ころが治っていない。
あと女性に弱い。
座席については女性がバス酔いしやすいとのことで窓側の席に座った。
「ハンカチのことありがとうね。せっかく買ったマダニのハンカチ無くすところだったから」
女性のハンカチをよく見ると水玉模様の一部
が血を吸ってパンパンになったマダニのプリ
ントになっている。
「これって某水族館の寄生虫展で販売されていたコラボグッズですか?!」
水族館の事となると身を乗り出してしまうの
が夢希の悪い癖だ。
「そうだよ。動物好きだけど最初は寄生虫って気持ち悪く思ってたんだ。だけど案外可愛いし生態系をつなぐ大切な役割をしてる子もいるんだなって思えてね」
女性の興味深い話に見入っているうちに目的
地が見えて来た。
(なんだろう……あの人とあった時も、話を聞いている時も、なんだかふわふわするような気がする。気のせいなのかな……?)
そう思いつつも彼女との別れをバスのボタンを押すとともに惜しく感じていた。
「奇遇だね!私も次のとこで降りるの。今日は電車が遅かったからおさプロ見れるか不安だったけどこの時間帯なら大丈夫みたい!」
(おさ……プロ……?もしかして……この人もあそこに……)
躊躇よりも感動が勝った彼はその僅かな可能性に賭け、バスを降りた直後に唐突に告げた。
「あの!俺もおさかなプロダクションが大好きで、なんならそれで年パス買ったというか、地味に推してるというか……えーっと……」
「……要約すると一緒にみたいってこと?おさプロ」
しどろもどろな彼をフォローするかのように
女性が要約する。
「そ……そうです!でも……お一人で周りたかったりしたら別にいいんですけど。まあそもそも僕たち出会ったばかりで異性ですし、気まずいか……」
その時、女性が夢希の言葉を遮って
「何言ってんのよ。一人よりも二人の方が楽しいでしょ?さ、急ぐわよ」
と珍しく的確なことを言うと二人は急いで階
段を登り受付を済ませた。
「さて、どのルートで行けばサイエンスゾーンまで最短でいけるのかしら……?」
あまりうみたまごに来たことがないのだろ
う。女性は頭を抱えた。
「僕に任せてください。館内入ってすぐのエレベーターで行きましょう!」
「……エレベーターで行くの?」
女性は疑いの眼差しを夢希に向ける。
そんな眼差しで見られているとは知らず、エレベーターのボタンを押しながら女性に根拠を話す。
「このエレベーターで一階まで降りるんです。その裏がサイエンスゾーンのはずなので」
(もし仮に彼がここで嘘をついたところでおさかなプロダクションを見ることはできない……同じおさプロファンとして今回は年パス所持者の言うことを信じましょうか。)
意外にも速く来たエレベーターで二人は一階
へ降りた。
幸いにもエレベーターには人がおらず、二人きりの貸し切りエレベーターだった。
「ここが近道なんてよく知ってるわね」
女性はまだ夢希の言うことが信じられないよ
うだ。
その証拠に爪を触っている。
「年パス所持者たる者、水族館の構造は頭の中にインプットしておくべし!そしてこの裏にサイエンスゾーンがあるはず… 」
二人が一階についたエレベーターから降りて
裏に回るとちょうど今からショーが始まるそ
うで軽快な音楽が鳴り始めた。
「……ホントにエレベーターの裏にあるわね……」
サイエンスゾーンへ着き夢希に関心している
と早速ショーが始まり出演する魚達の紹介に
移った。
「期待の新人から大御所まで幅広い芸達者な魚達が揃っているんです!その中でも厳選に厳選を重ねた魚達のパフォーマンス、早速紹介していこうと思います!今回の出演者は……」
ここ、おさかなプロダクションはただ魚のシ
ョーをするだけではなく魚達一人ひとりを芸
能人に見立てて〝多才なスター達が集まる芸
能事務所〟として始動している。
リニューアル前の旧マリーンパレス水族館時代から続く世界初の魚による曲芸の歴史あるプログラムだ。
アナウンスが始まるやいなや、すかさず女性が
「よっ!待ってました!」
とガッツポーズをしながら期待を込めて言う。
(よっぽどおさプロ好きなんだなこの
人……)
今回は一・二・四・七番水槽の魚達がショーを行うようだ。
「見て見て見て〜!推しが……推しがこの中の誰かを占ってくださる!」
出演者の紹介中にも関わらず隣で女性が興奮
している。
「あぁ、四番水槽のピエール★HAGIMOTOさんあまりご出演されないので今回はラッキーですね」
間髪入れずに女性が尋ねる。
「そうそう!それだけ多忙ってことなのよ。君にはその……なんだ、おさプロの推しっているの?」
ショーがスタートしそれを見ながら女性が夢
希の答えを待っている。
「そうですね、僕は……まあ推しってのはなくて。ただ、初めてこのショーを見た時、おさかなプロダクションの方々が一生懸命ご自身のショーに取り組んでいらっしゃるのに憧れて……そこから当時僕が興味を持っていた動物について極めようと思って今に至るって感じですね」
「ふーん。なーるほどねぇ……」
夢希にバレないように胸の内から込み上げる
ナニカを押し殺して女性は答えた。
ショーの方は丁度二番水槽が終わり、次の水槽に移るところだった。
「ヤバいヤバいヤバい!推しが降臨しちゃう!」
興奮している女性をハジライや尊敬が混じり
合う複雑なオモイで見ていた夢希を置いてシ
ョーは進行していく。
私はおもむろに目の前のカードをめくった。
そのカードに記されていたのは、
「んぁ〜A型かぁ!」
女性が言った通り〝TYPE A〟だった。
こうなることは二人が受付を済ませた時点で感じていた。
「……あんた、占って貰いなさいよ。今日は何かと世話になったし」
「いいんですか?その……推しなのに」
「あいにく私はB型でね〜。せっかくのチャンスだったのに」
女性は顔を歪ませながら夢希に伝える。
目を輝かせコクリと頷いた夢希は挙手しカウンターへ移動した。
しかし嘘をついてまで適正者を私のところへ行かせるなんて、そういう強制的なところは相変わらず変わっていませんね。
「そうですね……じゃあ恋愛運でお願いします!」
現にあなたの血液型はA型のはず。
まぁ、お客様、並びにご要望も決まったのでいいんですが、
そうでしょう?
「……ホミカさん」
誰にも聞こえないように静かに呟いた後、今
宵の顧客にそっと魔法をかけた。
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