恋バナボタン

「なあ、なんか良いバイト知らない?」


 放課後、高校の中庭でヒマを潰していた俺は、通りがかった部活の後輩にそう尋ねた。


「えー、急になんすか」


「割が良いバイト探してんだ。金ねえんだよ。なんか知らない?」


「知らないっすよ。コンビニのバイトでもすりゃいいじゃないすか」


「てっとり早く稼げるバイトが良いんだ」


「はあ、ならなんでボクに聞くんすか?」


 高1になる後輩の前髪越しにジト目を向けてくる。


「良いじゃん。お前に聞きたかったの」


「……。じゃ、じゃあ知らないことはないっすケド……」


 ラッキー。



 ◆ 


 

「割が良いバイトってこれ?」


「はい。このボタンを押せば一瞬で1万円稼げるっす」


 俺たちは路地裏の怪しい店の個室にいた。

 なんだか全面鏡張りの四畳半になっていて、いかがわしい臭いしかしない。

 そんな部屋の中心にテーブルと椅子2脚。

 テーブルの上に赤いボタン。


「どういう理屈なのこれ」


「知らないすか? 押すと気が付かないうちに1万円が入ってるんす」


「え、こわ」


 後輩が平然としているのが尚更に怖い。


「良いから良いから。押してみてくださいよ」


「でもまあ、1万か……」


 ごくり。

 このボタンを押すだけで……。


「せんぱーい」


 甘い声を出してくる後輩に急かされた俺はそのボタンを押す。



 ◆



「……あれ?」


 一瞬だけ気を失っていた。

 でも、ほんの一瞬。

 同じく鏡張りの部屋。


「せ、せんぱい、戻りましたか……はぁはぁ」


「どうしたんだ息を荒くして」


「これ、1万円っす」


 テーブルの上に1万円があった。

 

「おお、まじか!」


「まさか先輩が……え?」


 ポチポチポチー。


「これでめっちゃ稼げるじゃん」


「先輩!?」


 俺は気を失った。



 ◆



「どうした?」


「はぁはぁ……、先輩、ボクが悪かったっす」


 後輩が汗びっしょりになっていた。

 なにがあったんだ。

 というか、ブラウスが透けてその、ブラが見えている。


「なにがあったんだ?」


「これは恋バナボタンって言って、押すと恋バナを話してしまうんす。で、先輩が話した恋バナってボクの」


 はああああ!?

 じゃあ俺はこいつへの片思いを洗いざらい話してしまったのか!?

 俺たちは真っ赤になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る