15分の即興小説

etc

スゴ技ブルーシート

スパン! スパン!

道場では布を叩く音が、堂内に響き渡る。


「まだまだ修行が足らんぞ! それではレジャーシート止まりじゃ!」


「はい師匠!!」


僕はブルーシートの端と端を持ち、一間のブルーシートを縦に振る。


ばすん、ばすん


なんて弱々しい音がするのか。

師匠の繰り出すブルーシート捌きには到底かなわない。


「それではまだ認められませんよ」


「はい!」



~~~~1ヶ月前~~~~



「優奈さん、僕と付き合ってください!!」


僕は校舎裏で密かに思いを寄せていた優奈さんに告白をした。

春だった。


「ごめんなさい、わたし、高校に入ったら父の仕事を手伝わなくてはならないの……」


僕が頭を上げると、優奈さんは深々と頭を下げていた。

風に揺れるセミロングの黒髪を手で抑えながら、本当に申し訳無さそうな顔をしている。

春の終わりの、桜が散る季節だった。



 ■



その日、僕は悪友の情報をツテに、優奈さんの実家を尋ねた。

どうやら道場をやっているらしい。


その道場からは、スパン! と気持ちの良い音がした。


「すいません……」


道場の門をくぐると、そこは一面の青だった。

いや、青いシートを振り回す優奈さんの姿。


「優奈さん?」


おそるおそる話しかけると優奈さんはその手を止めた。

ふわりとブルーシートが待って、優奈さんの手の中にきれいに収まる。

すごい、ピクニックでこういう片付けする人がいるけど、その中でも極上の手さばきだ。


道着の中に黒いインナーを着た優奈さんは軽く一礼をして、僕に駆け寄った。


「どうしてここに?」


「あ、いや、家の手伝いをするって聞いたけど、実は僕の友達からこの道場にいるって聞いて」


「そうなんだ」


 ほっとした顔をした。

 まあ、そうだよな、ストーカーだとか思われたかもしれない。

 僕もほっとした。


「それで何か用?」


僕は言葉に困った。

なぜここにきたか。僕はあきらめきれないのだ。


「優奈さん、僕はあきらめきれないんです! そ、その……」


「それはもう断ったはずだけど……」


「じゃ、じゃあ、弟子にしてください! それでもし僕が一人前になれたら僕と付き合ってくれますか!?」


「……」


 沈黙が怖い。

優奈さんはうなずいた。


それでこういうスゴ技の修行をしているわけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る